異業種特集トップインタビュービジネス注目

【異業種特集】株式会社 カーベル 伊藤一正 代表取締役 <後半>

公開日: 2024/08/13

更新日: 2024/08/29

リングを縦横無尽に動き回るプロレスラー。その実態はFCビジネスを展開する経営者だった。カーベルの伊藤一正社長は18年前、脱サラでクルマを中心としたFCビジネスを立ち上げた。現在は全国に800店の加盟店を展開する。同社のサービスメニューは月1回開催される11名の幹部社員が集まる会議で決定する。人気の「R35Garage」や「ペットの旅立ち」も、すべて11人の幹部から生まれたものだった。

GT-R在庫だけで30台。総額は実に6億

例えば軽のスライドドア専門店。人気店がやっていないことをやる
例えば軽のスライドドア専門店。人気店がやっていないことをやる

――― GT-Rと言えば、専門店の「R35 Garage」を2022年にオープンされました。メディアへの露出も多かったですね。在庫台数もかなりありますが、仕入れルートは。

伊藤
 いま、在庫は30台で6億です。仕入れについては、ユーザー買取が中心。「GT-R買います」という広告を出しているので、全国のオーナーから直接、連絡があります。販売車両はすべて倉庫内展示。1台たりとも野ざらしにはしていないのがポイント。都内で30台収容できる倉庫は、そう多くはないんですよ。

――― よく言われることですが、利益だけを考えるのではなく、どうやったらお客さんが集まるのか、どうやったら満足して貰えるかを考えることが大切。

伊藤
 カッコよく言ったら、『スモールマーケット・ビッグシェア』なんです。小さな世界だけど、この分野なら負けない、みたいな。多数の同業者が集まるところにはディーラーもあるし名の知れた大型店もある。なぜそこに入っていくのか。プロレスでいうと、190cm130kgの巨漢に戦いを挑むのと同じです。勝てないでしょ。だから、これなら勝機がある、この分野なら行ける、というカテゴリーが求められる。「小さくても強い会社づくり」。これです。何も大手のように振舞う必要はないのです。

――― 加盟店に実際に伝えている具体例は。

伊藤
 街中で人気のあるショップを調べて、そこと違うことをやってくださいと言っています。例えば、メーカー系中古車センターが売れているなら、そこがやってないことをやる。主にはラインアップです。カーベル用語ですが、社内でよく『とんがったモン勝ち』と言います。例えば軽自動車。そこらじゅうに専門店があるので、価格での勝負は難しい。であれば、軽自動車のスライドドア専門店をやって下さい、と。そうすると、スライドドアのモデルだけを探しているお客さんが増えます。実はいま、軽で売れているのはスライドドアなんですよ。N-BOX、タント、スペーシア、ムーブキャンパスとか。この店は軽自動車のスライドドア専門店、という認識を持ってお客さんが来てくれれば、成約率は確実に高まるでしょう。スライドドアの軽を探しているという来店理由が明確だからです。商談はスムーズになりますね。

――― そうしたアドバイスに対する加盟店の反応は。

伊藤
 理解し早速、試される方もいれば、そうでない方もいます。話を受け入れ、それを実践している加盟店は全体の三分の一ほどですね。でも、利益を出しているところも三分の一。結局、みんなアレもコレも置きたくなり効果を出せなくなってしまうんです。ウチの「R35 Garage」はGT-Rしかやってません。GR86も置きたい衝動に駆られることもあるのですが(笑)。

――― もしGR86を扱うなら、別ラインで出店する必要がある。

伊藤
 人って、何か用事があって店に行く時、焼肉を食べに行くならココ、ラーメンならココ、クリーニング出すならあそこ、スーパー行くならあの店と、大抵決まっているんです。これは『なら戦略』と言います。「焼肉『なら』ココ」ってね。それなのになぜ、四輪販売店だけが何でもやろうとするんですか、ということなんです。何でもかんでもやっていいのは、ウチの場合は新車だけ。アレコレやりたいのなら、新車市場でやって下さい、と創業以来18年間言い続けています。

「ペットの旅立ち」のヒントは訪問火葬車

専用火葬車で依頼者宅を訪問。セレモニーから火葬、骨上げなどを行うサービス
専用火葬車で依頼者宅を訪問。セレモニーから火葬、骨上げなどを行うサービス

――― 二輪業界では後継者不足が問題となっています。四輪業界ではどうでしょうか。

伊藤
 9割の加盟店には後継者がいません。いても、半年くらいで事業承継できると思っている方がほとんど。だから、こう言います。「自分が何十年もかかってやってきたことを半年でバトンタッチできるんですか? と。クローンでもない限り、息子にバトンタッチしようと思ったら、まずは教育が必要。大概、借金があるので、それを踏まえたうえでどのような事業計画を立てるか。つまり、財務なんです。ここを理解しない状態でバトンタッチするので、知識も力もないし、財務の経験もない状態でトップに立つことになる。

――― 事業承継に必要な時間は。

伊藤
 四輪販売店のような、家族で営む小売業であれば、最低でも2年ですね。今いる社員にバトンタッチする場合、赤字続きの会社なら2年でいけますが、黒字が継続している会社だと代表者変更だけでは済まない。事業承継は所有者の変更であることを伝え、誰が新社長候補かを聞くと「〇〇にやらせる」と。そこで、会社の時価総額を確認すると、「いくらか知りません」と言う。だから、会社の株価、資産価値を金額で表して下さい。仮に会社に2億円の企業価値があるとすれば、後継者に2億円(買取資金)を用意させないとバトンタッチができないことを伝えます。残念なことに、それを理解されてない方が多いんです。だから、事業承継すると言いながら、何年もそのまま、という会社もあります。ウチの加盟店さんのなかでは、わずか3%しかありません。

――― かなり少ないですね。

伊藤
 社長は交代するけど印鑑は伊藤一正のまま。これだと社長交代でも何でもない。単なる役職変更に過ぎないんです。結局、その間、ビジネスが衰退し、廃業が増える。月に1社は廃業しています。その前段階ではこんなこともあります。先ほどお話ししたように、事業承継したくても後継者がいないというケースはとても多い。ナンバー2やナンバー3に打診しても、イエスと言わない。だから仕方なく店を閉めるという。なぜイエスと言ってくれないのかを確認すると、ほとんど銀行からの借り入れがあり、赤字なんです。にもかかわらず、それも引き継がそうとする。借入3000万円でそれを毎月返済してくれ、と。OKするわけがない。

――― 月に1社辞めても新しく加盟する店もありますよね。

伊藤
 最近は入会より退会が多いのも事実です。でも、ウチは強気なので昨年9月に会費を改定したんです。予想通り加盟店は減りました。でも、業績は全く悪化してないんです。新しく始めたビジネス「ペットの旅立ち」の需要が予想以上に好調だからです。これは、ペットが息を引き取った後火葬、お骨上げ、返骨までを行うサービス。なぜ弊社がペットビジネスに参入したかというと、このサービスは「訪問火葬」と言われていますが、絶対に欠かせないのは専用の火葬車。そこが発想の原点でした。

キャラバンの2列目3列目シートを取り払い、そこに火葬炉を積みます。そして、屋根をくり抜き熱風が上に逃げるようにしています。完全なるオリジナル火葬車ですね。依頼は毎日あります。それだけ多くの犬や猫が旅立っているということ。昔は河川敷に埋葬したりしましたけど、いまは違う。最近は犬や猫を家の中で飼いますよね。家族の一員という意識が強いので、死んだらお葬式してあげたい、と思うのです。日本の法律では、ペットの亡骸は燃えるゴミ扱いなので、普通に焼却して問題はないのですが、そんな人はまずいません。つまり需要がある。私たちからしてみれば、カービジネスの延長上にあるサービスなのです。

――― いま、どれくらいの需要があるのでしょうか。

伊藤
 年間6000頭(匹)を超える依頼があります。脱サラで始める方が多いですね。新車市場も100円レンタカーもやらず、ペットのお葬式だけをやる加盟店が多いです。結局、私は好きなことをビジネスにしているということ。クルマが好き、ペットが好き、プロレスが好き。好きなことだから、疲れない。ゲームと同じですよ。寝る時間を惜しんでもやる。ちなみにペットはチワワを3匹飼ってます。

「推薦入社」の入社枠はベンチャー企業。スタートアップ企業を中心に拡大中

伊藤社長による春と秋年2回の講演「伊藤タイム」は大人気。業界ではかなり有名
伊藤社長による春と秋年2回の講演「伊藤タイム」は大人気。業界ではかなり有名

――― カーベルさんは、どんどん新しいビジネスを生み出しています。昨年は「推薦入社」を展開し始めました。

伊藤
 人材採用で悩んでいる企業はかなり多いのが現状です。そこで、弊社の強みである採用スタイルを事業化し、採用問題の解決の手助けのために始めたのが推薦入学の就職版『推薦入社』です。提携先企業や登録企業に優先して入社できる仕組みです。大手企業からの推薦入社枠もあります。学生と面談を行い、マッチングを考慮したうえで推薦状を発行。それを元にいきなり採用担当責任者あるいは役員と面接を行います。内定がでたら、そこから弊社で年内2日、年明け3日の社会人研修を行い、入社後の活躍を後押しします。

――― なぜ、ビジネスとして成立するのでしょうか。

伊藤
 全国にチェーン店を展開していること、チェーン店に対する様々な研修を通じて得た人材育成力があるからです。つまり、即戦力の新卒採用が可能なのです。最近はベンチャー企業やスタートアップ企業からの推薦入社枠が増えています。

――― なかなか面白い発想ですね。これらはすべて伊藤社長が考えたもの。

伊藤
 ウチには11人の幹部がいます。彼らは月1回の会議の場に様々なアイデアを持ち寄ります。アイデアがないと会議には参加できません。私は彼らが持ち寄った企画案を決裁するだけです。ジムニーの件も、私の発案ではありません。そうですね、年間120~130ほどのアイデアが出ますが、そのうち採用されるのは2本程度です。自分の意見が採用されると、そのスタッフはその新規事業のリーダーになります。

「伊藤タイム」のほか、専任スタッフが担当するイベントは毎月開催
「伊藤タイム」のほか、専任スタッフが担当するイベントは毎月開催

――― サービスを利用する側の加盟店に対しては、どのような講習を行っているのでしょうか。

伊藤
 私が担当するのは年2回、春と秋に行う「伊藤タイム」です。その他、専任スタッフが担当する講習は毎月、開催しています。参加率は社員がやると、40%程度です。私がやると80%。

――― 圧倒的な差ですね。フランチャイジーからすれば、伊藤社長のキャラクターに魅了されているところが多いように感じますが、社長自身は事業承継についてどう考えていますか。

伊藤
 3年後、58歳でのバトンタッチを考えています。私が55歳になった時がそのタイミングです。去年の9月にホールディングス化しました。事業承継がしやすいようカーベルの下に4社、子会社を設立しました。それらを一つの資産として管理するのがホールディングスです。

――― 58歳という年齢は若すぎるように思います。

伊藤
 18年前にカーベルを創業した時、自分の引退の年を55歳と決めてたので、計画通りなんです。当時は生涯現役なんて言葉はなかった。これが当時の私のジャッジです。

――― 社員は知っている。

伊藤
 はい。社長のポストはオレが狙う、という考えの人材は多くいます。幹部社員のなかの誰かがそのポストを射止めます。

――― 辞めた後は?

伊藤
 やることは考えています。経営者教育に特化した専門学校を設立しようと思います。学校法人にするか、セミナー方式にするか。カーベルアカデミーといったライセンスでやるか。いま、色々と進めているところです。経営者に求められる資質は色々とありますが、一つ挙げると、大谷翔平を見て「違う」と思うかどうかです。昭和の時代には、あんな選手はいなかった。平成や令和の、いわゆるZ世代ならではの逸材です。私たちには『能ある鷹は爪を隠す』とか、『人前で何かに一生懸命取り組むのが恥ずかしい』という感覚がある。昭和ですよね。人目のないところで頑張る、みたいな。でもZ世代は、みんなが見ているところで自分の努力する姿を見てもらいたい人たちなので、大谷翔平や羽生結弦などの逸材が出てくるんです。義理人情? 気にしません。石の上にも三年? 意味わかりません(笑)。苦労は買ってでもしろ。「エッ、何で苦労を買わなきゃいけないの?」って(笑)。そういう若い子がいっぱいいるけど、それが普通なんです。

――― 昭和世代からすると隔世の感があります。

伊藤
 いま、売上ベースで90億です。先ほどもお話ししましたが、加盟店数は800店舗です。創業から18年間、一度も赤字はありません。私はかなりの高額納税者の一人です。そんな私がキチンと事業承継、引退ができたら、これから会社を興す人にとって最高の教科書になる。そう思っています。



異業種特集記事一覧トップインタビュー記事一覧

株式会社カーベル - 全国850店舗の車の総合サービス会社

カーベルは全国に850店舗を展開しており、多様なブランドを展開。各ブランド独自の特徴と個性を持ち、新車・中古車購入、レンタカー等多様な選択肢をお客様に提供致します。

株式会社カーベル - 全国850店舗の車の総合サービス会社

SE Ranking

人気記事ランキング

世界初公開! KAWASAKI「KLX230 SHELPA」足つきインプレ!

2024年11月27日に発売が決まったカワサキ「KLX230 シェルパ」! 今回はBDSテクニカルスクールの井田講師...


「BDSバイクセンサー秋の祭典」、約2000人が来場! バイクの楽しさや魅力を多くのユーザーにお届け

BDSは11月16日、一般ユーザー向けイベント「第4回BDSバイクセンサー秋の祭典」を柏の杜会場で開催した。...


『APtrikes250』のプロトタイプ公開、発売は今秋。正規販売店募集も近日中に開始予定!

普通自動車免許で乗ることができ、3人乗車も可能で車検も不要な、クルマとバイクの『いいとこどり』の乗...


【販売店取材】山元モーターサイクル 山元隆 代表(鹿児島県)

鉄道、路線バスなどの交通手段が限定的であるため、鹿屋市では、二輪は交通手段として欠かすことはでき...


「W230」「MEGURO S1」足つき比較インプレ! 250ccレトロスポーツ遂に発売!

11月20日に発売が決まったカワサキ「W230」「MEGURO S1」! 今回はBDSテクニカルスクールの井田講師とBD...


カワサキ新型「KLX230SM」足つき&試乗インプレ!

軽量かつアグレッシブなスーパーモトスタイルのカワサキ「KLX230SM」に、小林ゆきさんが試乗!足つき・...


2023年1月より電子車検証導入。二輪業界では、何がどう変わる?

来年1月、車検証が電子化される。二輪業界では何がどう変わるのか、販売店やユーザーのメリットは何か。...


オフ車選びに悩んでいる方必見! 人気オフロードバイク足つき比較

HONDA「CRF250L」、YAMAHA「WR250」「セロ-250」、KAWASAKI「KLX230」! 250ccクラスのオフロード車4台...


2023年新車国内出荷台数 ~原一、10万台を割り込んだが原二の躍進で37万9800台と前年比3.0%のプラス~

2023年の新車国内出荷台数は国内4メーカー合わせて37万9800台(速報値・二輪車新聞社調べ)。原付一種が...


自販機のコイン投入口に縦と横ある理由とは?

自販機(自動サービス機)には「縦」と「横」、2種類のコイン投入口があるのはご存じだと思う。では、な...