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各業界面で加速する外国人雇用。整備士不足が深刻化する二輪業界での実態は?

公開日: 2025/06/04

更新日: 2025/06/04

日本全体が深刻な労働力不足に直面している。この傾向はコロナ後、経済活動が正常化すると、さらに加速度を増した。二輪業界では全体としての労働力不足の他、四輪業界と同様、整備士不足も深刻さを増している。他の業界を見渡すと、外国人労働力に頼る傾向が強まっているのが分かる。時代の要請とも考えられるこの状況について、様々な角度から検証する。

外国人が二輪販売店で整備士として働くことは可能

「人口減少と少子高齢化」 ※出典:内閣府HPより
「人口減少と少子高齢化」 ※出典:内閣府HPより

労働力が不足している。2010年前後からだろうか。労働力不足が表層化し、長期に渡り深刻度を増している。そしてコロナ終息後、経済活動が再開してからは、そこに拍車が掛かった。なぜ、これほどまで労働力不足が加速しているのだろうか。理由はいくつか考えられるが、最も大きな要因は少子高齢化。生産年齢人口と呼ばれる15歳から64歳の人口減少だ。

上のグラフを見て頂きたい。この10年間の生産年齢人口は、1995年をピークに減り続けている。さらには今後の日本を担う14歳以下の人口も、徐々にではあるが減少傾向にある。内閣府の統計(2020年)では、生産年齢人口は7406万人だが、45年後の2065年になると、約4割減少し4529万人になるという試算がある。

こうした状況を補うため、最近では営業日を減らし営業時間を短縮するなど、サービス提供そのものを見直す動きも見られる。またそこに「103万円の壁問題」も労働力不足の一因としてのしかかった。これは予算案が衆議院を通過し、控除額の最大160万円までの引き上げが決定しているが、引き上げ効果が表れるのはこれからだ。

厚生労働省の「労働経済動向調査」「雇用動向調査」(2024年11月現在)によると、労働力不足に陥っている業種・職種は「医療・福祉」「建設業」「運輸業・郵便業」がワースト3となっている。「卸売業・小売業」は圏外ではあるものの、深刻であることに変わりはない。小売業の労働力不足の要因としては、「長時間労働」「低賃金」「休暇の取りにくさ」などが挙げられている。これらを改善するには、前述の要因を取り除く必要があるわけだが、今回はここ最近、増加傾向にある外国人雇用に焦点を当ててみる。 

日常生活において外国人労働力を実感できるシーンは多い。例えばコンビニ。かつては家庭の主婦や学生の“主戦場”の一つであったが、ここ数年は時間帯によっては全員が外国人という店もある。また、飲食店や建設現場で外国人を見かける機会も増えている。こうした労働者の多くは、「日本でお金を稼いで母国に送金したい」といった目標を持っている。

この外国人雇用だが、かねて整備士不足、人材不足が大きな問題となっている二輪業界においてはどうだろうか。四輪整備工場では、さほど多くはないが、実際に従業員として働いているという話を見聞きすることはある。だが、二輪販売店においては、それがない。では実際、外国人が二輪販売店で整備士として働くことは可能なのだろうか。結論から言うと可能だ。だが、そこにはいくつかクリアしなければならない条件があった。

2019年創設の特定技能制度により二輪業界も対象に

「働き方やライフコースの多様化①」 ※出典:内閣府HPより
「働き方やライフコースの多様化①」 ※出典:内閣府HPより

まず外国人雇用の現状として日本国内には230万人(2024年10月現在)の外国人労働者がいる。前年実績と比べ12%の伸び。人数ベースでは25万人ほど増えている。これは凄い伸び率と言える。こうした状況を受け2017年、株式会社JJS(JapanJobSchool・松里優祐社長)が設立された。同社は日本での就労を希望する外国人に対し仕事を紹介するビジネスを展開する。日本文化や日本人理解に関する教育・研修を行い、カリキュラムを終えた外国人卒業生を企業に送り込んでいる。早速、松里社長に話を伺った。まずは外国人労働者の増加について。同氏はその理由を次のように指摘する。

「大きなポイントは2019年に始まった特定技能の創設です。これにより従来、外国人の就労が難しかった業種での雇用が緩和されました。人手不足が深刻な業界が対象で、これには介護や外食、建設などのなかに自動車整備業界、二輪業界も対象となりました。次に企業側の意識の変化です。弊社の創業は2017年なのですが、創業当時は外国人採用に対し不安を抱えている方が多く、あまり積極的ではなかった。けれども近年、意識に変化が表れ抵抗を感じる人は少なくなったように思います。やはり、これも特定技能制度の導入によって、外国人人材市場が徐々に活性化してきたことが影響しているからでしょう」

日本語能力検定は「N4」以上これは5段階中4番目の難易度

日本語能力検定は「N4」以上これは5段階中4番目の難易度
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松里社長は採用するにあたっての方法は3つあるという。①「技能実習」と②「特定技能」(1号・2号)、そして整備士2級を取得した外国人を③『技術・人文知識・国際業務という在留資格で採用する方法』だ。3つ目を除き、どの業界においても採用基準は同一だが、二輪業界においてはあまり進んでないのが現実だ。要因としては、技能実習制度導入の遅れに起因することが考えられる、と松里社長は指摘する。

「制度自体は1990年から始まっており、製造業などではその頃から徐々に採用が進んでいます。けれども自動車整備・二輪業界で始まったのは2018年。介護業界も2017年と遅い。採用が遅れている理由はここにあります。なぜ遅れたかは明らかになっていませんが、命に係わる仕事であるため慎重になっていたのかもしれませんね」

ここで、先に挙げた採用方法である「技能実習制度」と「特定技能制度」について見てみよう。主な違いは制度の目的にある。前者は外国人が日本の産業技術を収得し、それを自国の経済発展に役立てることを目的としている。一方の後者は特定産業分野が対象。この分野の人手不足を解消するための人材確保が主目的だ。ひと言で言うと、「技能実習」は海外との関係性強化を主眼とした制度であり、一方の「特定技能制度」は国内企業の発展が中心の制度と言える。さらに詳しく見てみよう。

「技能実習制度」には、障壁があった。自動車整備事業を営みつつ二輪も扱うのであれば問題はないが、二輪の販売・整備だけを行っている二輪販売店は対象外なのだという。これも外国人雇用が進まない一因と考えられる。だが、これが「特定技能制度」になると状況は変わる。二輪販売店でも受け入れは可能、と松里社長は指摘する。

「難易度はさほど高くはありません。特定技能制度での採用は、『日本語能力試験』の受験が必須ですが、N4以上の取得が条件です。この試験にはN1からN5までのランクがあり、最も難易度が高いのはN1で、N5は日本語の基本的な挨拶や簡単な日常会話が理解できる初級レベルです。イメージとしては、コンビニで働いている外国人にはN2かN3が求められるので、この事実からすると、コンビニのほうが基準は厳しいことになります。その他、特定技能制度においては、二輪は自動車整備業界に含まれるため、整備に関する試験があり、これに合格をすることが求められます。この2つを満たしていれば、特定技能制度で働くことができます。この試験は整備経験者でないと難しいと思います。試験自体は日本語ですが、漢字にはルビをふってあり、専門用語については注釈として英語や試験実施国の現地語等、他の言語の記載もあります」

受験者にとっては、自国での経験の有無がポイントになりそうだ。特定技能制度には、制度そのものに1号と2号が存在し、1号には5年というリミットがある。それを過ぎると、そこで終了となる。継続のためには「2号」として登録しなければならばいが、そのためには試験に合格しなければならない。これにクリアすると、継続して日本で就労することができる。この制度が発足してまだあまり時間は経過してないが、合格率は決して低くはないという。普通に仕事をしていれば合格できる、と松里社長は説明する。

就労希望の外国人にとっての魅力はお金ではなくサブカルチャーや安全性

ジャパンジョブスクール・松里優佑社長
ジャパンジョブスクール・松里優佑社長

では、一度、根本に立ち返り、二輪販売店が外国人整備士を必要とし、雇用を考えた場合、何をどのようにすればいいのだろうか。

「弊社のような企業に依頼するのが一般的だと思います。何をどうすればいいのかが分からないのが普通ですからね。弊社の場合、初めの一歩は面接から始まります。企業側の条件をお伺いし、それに基づき人材面接を行います。要件的なところでは、労働法に基づく適正な雇用管理が必要になります。例えば、最低賃金の遵守や労働時間管理が制度化されているかがポイントです。もちろん、社会保険や雇用保険への加入は当たり前ですよね。賃金も外国人だからという理由で不当に下げることはできません」

外国人を初めて採用するという企業のほうが圧倒的に多いというが、慣れてきたら自分たちで独自に採用活動を行う会社もあるという。例えばいま働いているスタッフからの紹介(リファラル採用)や、独自に求人広告を出すというやり方だ。

JJSではネパールとミャンマーでスクールを運営している。基本はここで育成した人材の紹介となる。日本での就労希望者に教育を施し、能力が身についてきたら、先述の面接をセッティングするという流れ。教育期間は半年から1年。同社の方針は、「日本人と良好な関係を築ける人材の創出」。これを重視している。そのため日本の文化や日本人の働き方、そしてビジネスマナーなども授業に取り入れているのだという。

日本に行きたいと思っている現地の人は多いというが、円安が加速しているこの2~3年間は、円高時代とはわけが違う。これについて日本で就労を希望する外国人の多くは、お金の問題だけではなく日本のサブカルチャーや安全性に大きな魅力を感じているのだという。お金の問題以外に感じているものがあるということだろう。

JJSからの紹介の流れについてだが、同社では企業の登録制度を導入している。それら登録企業をスクール生に紹介し、彼らが受験を希望する企業に対しアプローチするという仕組み。創業から今年で8年目となるが、その間に紹介した人数は2000名を超える。では、この人数に占める四輪・二輪業界に就職した人の割合はどれくらいいるのだろうか。

「まだ、さほど多くはありませんが、これから増えてくると見ています。そのためいまはスクール生というよりは、すでに日本国内在住の方を対象に紹介することのほうが多いです。最近ではネパールやベトナムの方もいらっしゃいました。この先、募集が増えれば、状況はどんどん変わっていくと思います」

整備士以外の人材を採用する場合はどうか。松里社長によれば、「特定技能制度」には該当しないため、他の在留資格取得が必要になるという。例えば①「永住ビザ」。在留期間に制限がなく、就労制限もないため、販売や接客業務にも従事可能となる。②「家族滞在ビザ等」(就労資格なし)については、資格外活動許可を取得すれば、一部の接客業務が可能となる。ただし、どの在留資格も、「特定技能」のように就職や転職市場では人数も多くないので、採用できるかどうかはまた別問題となるのだ。

JJSから人材紹介を受け、就職が決まった場合、コストはどれくらいかかるのか。同社では紹介フィーが36万円で支援代行料が毎月2万円必要となる。

結論としては、四輪・二輪業界においては、制度化からあまり時間が経過していないため、雇用実態はさほど多くはないのが現状。けれども少子高齢化の実態を考えると、外国人雇用が選択肢の一つであることを認識しておくことは必要かもしれない。






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