公開日: 2021/07/29
更新日: 2022/09/06
――― 蔡会長が着任されたのはいつでしょうか。
蔡 昨年10月です。当初は6月を予定していたのですが、コロナの影響によりビザが下りず、4か月遅れてしまいました。
――― キムコジャパンの会長として、日本に着任するまでのキャリアについて教えて下さい。
蔡 大学を卒業した後、日本の企業に就職し、その後、キムコ(台湾本社)に転職しました。配属先は海外営業部。世界各国をまわり、新しい販売輸入元を探す仕事です。最初の赴任地はインドネシアで、そこに5年いました。その後、台湾の本社に戻り、今度はアメリカの子会社に出向しました。そこが一番長かったですね。3年前、台湾に戻り去年の10月、日本に来ました。海外勤務はトータルで10年ほどです。
――― 名刺に書いてある「ビクター」はイングリッシュネーム?
蔡 はい。パスポートに「Victor」と記載されています。ちなみに王彦傑社長(取材に同席)は「Jack」と言います。
――― コロナ感染拡大のさなかの赴任だったわけですが、2020年の日本国内における販売実績は。
蔡 2020年は1200台です。ちなみに前年は1100台だったので前年比109%。今年の販売計画は1400台です。キムコ車のラインアップは原付二種(125㏄)、軽二輪(150~250㏄)、そして小型二輪(550㏄)ですが、このうち65%が原付二種です。これからは日常の足であるシティコミューターを中心に、スポーツ・レジャーモデルにも力を入れていきたいと考えています。
――― それぞれのクラスの代表機種は。
蔡 シティコミューターはGP125i、ターセリーS125ABS、ターセリーS150ABSで、スポーツ・レジャーモデルは、レーシングS125、レーシングS150、G-ディンク250i、ダウンタウン125ABS、AK550です。
――― 昨年の販売実績が一昨年を上回ったわけですね。これにはいくつか要因があると思いますが、台湾におけるコロナの影響はどうだったのでしょうか。
蔡 去年の2月が中国国内におけるコロナのピークだったと思うのですが、その頃、中国の車両工場も1ヶ月間閉鎖しました。その分、生産が遅れましたが、日本国内には2〜3ヶ月分の車両をストックしているので、1ヶ月ほどの遅れであれば、さほど大きな影響はないのです。台湾の生産ラインについては、全く止まることはありませんでした。世界的なコンテナ不足の問題もありますが、キムコの場合、大きな船会社と契約していることもあり、遅延は最小限に抑えられました。
――― あまり影響はなかったということ。
蔡 今年の4月から5月にかけては、先行きが不透明だったこともあり、オーダーは減りました。でも6月に入るとディーラーさんの間でも「何とか行けるんじゃない?」という思いが支配的となり、受注は一気に増えました。この背景には、他メーカーの車両供給が滞っていたことも影響しています。これは複数の代理店さんから聞いた話なのですが、元々、国産スクーターを探していたお客さんが、在庫がないことを知り、キムコを選択するというケースが増えたのです。即納できるのが強みだったわけですね。
――― 国内ではイベントが軒並み中止にとなりましたが、キムコではどうだった。
蔡 イベントの代わりにSNSに力を入れました。主体は動画配信ですね。台湾で開催した新車発表会の様子を流しました。あとは、台湾のテレビCMも配信しました。日本での反応は上々で、今度、日本にも導入される180㏄水冷スポーツスクーターの「KRV」に多くの問い合わせを頂きました。日本にはこういう尖ったモデルはないので、注目されているのだと思います。
――― 日本以外の国での需要はどうでしょうか。昔から欧州では根強い人気があります。デザインは台湾で?
蔡 イタリア、スペイン、フランス。この3カ国がヨーロッパにおける販売台数トップ3です。デザインについては、台湾と上海、そしてイタリアにデザインセンターがあり、それぞれの地域のトレンドに合わせデザインします。市場によってラインアップは異なりますが、売れると思ったらどんどん投入します。日本市場で一番人気が高いのはGP125。コストパフォーマンスに優れたコミューターです。それに次ぐのがターセリー125・150。このモデルは元々、ヨーロッパで発売されていたモノで、デザイナーはイタリア人です。もし、日本メーカーとデザイン的に似ていたら、価格戦争になるでしょう。だから差別化のためにも、日本のメーカーには見られないデザイン、売ってない分野の車種を投入し、そのニーズに合致するお客様に満足して頂ければ、それでいいと思っています。
――― 全世界で最も売れている機種は。
蔡 ヨーロッパ市場ではターセリーです。あとはダウンタウンですが、これはかつてのカワサキさんのスクーターとエンジン、フレームが同一のモデルです。外装デザインはカワサキさんが手掛け、キムコが生産しました。OEM生産ですね。ダウンタウンはメイン商品ですが、それ以前にも世界的にヒットしたアジリティという機種が50~200㏄のラインアップでありました。
――― かつてはスーナー50というスクーターもありましたね。
蔡 これは台湾市場向けの製品を、当時のインポーターが日本に導入したものです。車名を考えたのは、私なんです(と言って、自分を指さす)。
――― 日本市場とヨーロッパ市場の需要の違いは。
蔡 全くと言っていいほど異なります。ヨーロッパのユーザーはスタイル、デザインに拘ります。彼らはデザインが気にならないと、どんなに安く高性能でも買いません。スペックは、あまり気にしないですね。ベーシックな性能が備わっていれば、見た目中心になる。これがヨーロッパのユーザーの特徴です。チェックポイントが多いんですね。その点、日本のユーザーは理性的。ブランドイメージや品質、アフターサービスを重視するので、日本人向けの製品を作るのは、かなり難しいです。一例を挙げると、組み立てた時のカウルの隙間。ヨーロッパでは、わずかなものであれば、気にしません。でも日本のユーザーだと、そうはいかない。そのため、完成車両の最終点検を何度も念入りに行っています。手間が掛かるので一見、面倒に思えるかもしれませんが、そうではありません。この作業が私たちを成長させてくれるのです。
――― この先、日本に投入する予定の車両は。
蔡 X-townCT125です。コンパクトモデルではなくフラットフロアの大型モデルで、2年前のモーターサイクルショーで発表しました。EURO6対応、ABS装着、ヘッドライトのLED化がポイントです。その他180㏄のKRVも導入予定です。
――― 以前、発表されたEVのF9はリリースされるのでしょうか。
蔡 いまのところ導入予定はありません。日本には充電設備のあるエナジーステーションが不足しているからです。また、バッテリーの問題から、ガソリン車に比べ航続距離が短いことも影響しています。さらには価格の問題。まだまだ値段が高い。将来的には導入しますが、いまは未定です。台湾では購入者に多額の補助金を出します。メーカーからはエナジーステーションやバッテリーステーションなどにもお金を出します。こうした後押しもあり、台湾でのEVバイクのシェアは12%に到達しました。全体の普及率は1・3人に1台です。しかもこれは成人男性というわけではなく、子供や高齢者も含めた全人口です。台湾では、キムコは21年連続で市場占有率ナンバーワンです。
――― 2019年に話題となったスーパーネックスのリリースは。
蔡 いま、生産体制を整えているところです。生産はイタリアで行うので、市場はヨーロッパとアメリカです。日本での話ではないので、私の口から言うことはできないのです。楽しみにしていて下さい(笑)。
――― いま、最も力を入れていることは何でしょう。
蔡 ネットワークの拡大です。販売店チャネルは、二輪メーカーの基礎で、これがなければ売ることはできません。優先順位はディーラーネットワークの拡大と既存店のサポートです。一例を挙げると、去年、感染拡大防止のための自粛要請により、ユーザーが保証修理等で来店できない状況が続きました。これを考慮し2月1日から8月31日までに車両保証期間が満了となる車両に対し、一律で2020年8月31日まで保証期間を延長することを発表しました。延長保証ですね。
――― パーツの供給がかなり潤沢だと聞きました。
蔡 はい。ウチはパーツの即納率が95%です。さらに言うと、2週間以内なら99・5%とほぼ100%です。キムコ車は2000年から日本で流通しているので、古い機種のパーツもあります。この近くに倉庫があるので、後でお見せしますね。
――― ありがとうございます。でも、凄い数字ですね。現在の代理店数と今年度の目標店舗数は。
蔡 160店(6月現在)ですが、これを200店まで伸ばす計画です。お店が多ければ多いほどユーザーの移動距離も少なくなるので、より便利になります。
――― キムコジャパンの設立から6年が経過しますが、現状を総括すると?
蔡 いま、キムコは需要拡大に向けた過渡期にあります。先ほどもお話ししましたように、ディーラー数を増強することで、それに比例し台数も増えることと思います。いまはお店によって扱える車両が変わりつつあるので、キムコにとってはチャンスなのだと思います。今後はいままで以上に認知度を高めるため、さらに広告展開に力を入れていこうと考えています。コロナ禍により先延ばしになっていますが、収束したら、ディーラーとメディアを招待し台湾や中国の工場見学ツアーを実施する予定です。工場は2年前に1億ドル(当時のレートで8億円)を投資し建設しました。キムコのワールドワイドな規模感を紹介し、それを広く情報発信することが、ディーラーの増加と販売台数アップに結び付くものと考えます。
――― 創業から6年を経たいまが最も好調ということですね。ありがとうございました。
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