公開日: 2025/01/07
更新日: 2025/01/15
道路交通法施行規則が改正され、4月1日より適用される。これにより、原付一種にしか乗れないユーザーでも125cc以下の『新基準原付』に乗ることができるようになる。これまでの流れの中で、『二輪車車両区分見直しに関する有識者検討会』の設置、習熟運転者や一般運転者による走行評価・試乗会の開催、パブリックコメントの募集などが行われたが、これについて再度、確認してみる。
2025年における二輪業界にとっての大きなトピックのひとつと言えば、今年4月1日から原付免許で運転できるようになる、排気量125cc以下・最高出力4kW(5.4PS)以下の『新基準原付』だ。
二輪業界で知らない人はいないだろうが、ひと通りおさらいしておくと、端緒は今年11月以降に製造される原付一種の車両に対する、排ガス規制の適用である。だが、現行の50cc原付では基準を満たす開発が難しく、開発費用に見合うだけの事業性の見通しも立たない。そのため、2022年4月に二輪業界が二輪車の車両区分見直しに関する要望を提出。これを受け、警察庁は『二輪車車両区分見直しに関する有識者検討会』を設置。排気量125cc以下・最高出力4kW以下の車両を原付一種に区分することについて、2023年9月から12月にかけて分科会も含めて4回の検討会を開催した(習熟運転者を対象とした走行評価2回、一般の運転者を対象とした試乗会1回、計3回コースを使った走行も実施)。
その結果、同検討会では「車種ごとの違いは多少あるものの、総じて新基準原付を初心者が乗ることに危険性は感じられない」「現行原付と比較すると、出力が低く制御されている分、あまり差はなく感じるため、現行の法の範囲内(制限速度等)であれば安全に運転することは可能であると思う」(報告書より抜粋)と結論づけた。
そして、2024年11月13日には、一部改正した道路運送車両法施行規則を公布・施行。今年4月には道路交通法施行規則も改正されるというのが、これまでの大まかな流れだ。
ここで、いくつか余談。排ガス規制をクリアするには触媒が不可欠だが、効果を十分に発揮するには約300度の温度に到達する必要がある。今の原付一種がその温度に到達するのに約240秒かかる。これが110ccの車両になると約70秒と、1分ちょっとで到達。4分の1近くの時間で済むのだ。排気量が大きくなればなるほど到達時間は短縮されるので、小さな排気量だからこその問題だと言える。つまり、排気量を大きくすれば容易に解決できる問題なのだ。
そのほか、設計最高速度を今の60km/hから50km/hに引き下げれば11月からの排出ガス規制を受けないが、加速性能や登坂性能も低下する。登坂性能で言えば、現行は約13度の傾斜の坂で途中発進しても安定して登っていくが、排ガス規制の適用されない設計最高速度50km/hだと途中発進が可能な最大斜度は10度になってしまうという。静岡県熱海市は登坂角度11度以上の道路が道路総距離の約10%を占めている。そのような地域では、移動手段として使うのが厳しくなる。つまり、設計最高速度を下げてしまうと、今の原付一種の代替にはなり得ないのだ。
検討会では前述したように、新基準原付で実際にコースを走った結果を参考にしているのだが、それについて触れておく。
習熟運転手(運転免許技能試験官12名)を対象とした走行評価は2023年9月15日・20日の2回、警視庁府中運転免許試験場二輪試験コースで行われた。用意された車両は、現原付一種4車種(ベンリィ、ギア、タクト、C50)、新基準原付5車種(PCX、リード125、C110、Vision110、CB125R)、現原付二種3車種(リード125、CB125R、C110)。対象が習熟運転者なので、新基準原付が今の原付一種と同様に安全かつ容易に運転できるかなどの確認が目的。
幹線コース・周回コースの走行、発進・停止、交差点の走行、スラロームコースの走行、一本橋の走行、引き起こし、押し歩きなどについて、現原付一種に対する新基準原付を「易しい」の1から「難しい」の5までの5段階で評価。全確認項目の総合評価は「やや易しい」と「同程度」が多く、点数は2.7~3.0となった。ただ、新基準原付はボディが大きく重いので、引き起こしや押し歩き、坂道発進などは点数が高め(操作が難しい)となった。
もう一つが、2023年10月26日、交通教育センターレインボー埼玉で開催された試乗会。対象は原付免許、付帯原付免許保有者(運転できる二輪車は原付一種のみ)で21歳~72歳の男女21名(そのうち16名が二輪車の運転未経験)。用意された車両は現原付一種モデルが4車種(ベンリィ、ギア、タクト、C50)と新基準原付4車種(PCX、リード125、C110、Vision110)。
それぞれの車両に乗って発進、直進、停止、コーナーリング、押し歩きをしてもらい、習熟運転者と同様に5段階で新基準原付を評価。全体として、点数は2.1と低かった(操作が易しい)が、習熟運転者と同様に押し歩きは点数が高くなった(操作が難しい)。これらの結果からも、やはり50cc原付一種の軽さやコンパクトさは唯一無二だと言えよう。
さて、警察庁では道交法の改正にあたって、昨年8月30日から9月28日までの間、『新基準原付』に関するパブリックコメントを募集していた。その結果を11月13日に公開。寄せられた意見は511件にものぼった。これらはすべて、警察庁情報公開室で閲覧可能で内容はさまざま。以下のコメントは、それらを警察庁がまとめたものだ。
「簡便で身近な移動手段としての原付を持続可能とするため、現行の免許制度のまま運転できる体制を維持していくことは非常に重要で、二輪車の車両区分見直しは、妥当かつ必要」「125ccの二輪車は今の原付と比較して大型で馬力があり、出力を抑えても技能試験のない原付免許で運転できるようにするのは危険ではないか」「出力制限の改造防止措置や、新基準原付と出力制限のない125ccの小型二輪車を外見上識別できることが必要ではないか」「最高出力を4.0kW以下に制御した二輪車に限らず、総排気量125cc以下の全ての二輪車を原付免許で運転できるようになるという誤った解釈が広まらないよう周知する必要があるのではないか」
この最後のコメントにある『125cc以下の全ての二輪車を原付免許で運転できるようになるという誤った解釈』だが、SNSでは「4月からどの125ccにも乗れるようになる」と投稿している人を見かけたのは一度や二度ではない。さらに、二段階右折や30km/hの速度制限など、現原付一種のルールは継続される見込み。原付二種と新基準原付で同一なのは排気量だけなのだ。
普通二輪や大型二輪の免許を持っているユーザーなら問題はないが、原付一種しか乗れない免許しか持っていないユーザーが125ccに乗ると無免許運転となる。違反点数25点で一発免許取り消し。例えば普通自動車の免許を持っていて乗れる二輪は原付一種だけのユーザーが125ccに乗って無免許運転で捕まってしまうと、普通自動車免許までも取り消しになる。しかも、2年間免許を取ることができない(免停などの前歴があると最長5年間欠格)だけではなく、刑事罰として3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられるなど、笑い事では済まない事態となるのだ。
販売店が「4月からどの125ccにも乗れるようになる」のような『誤った解釈』をしているユーザーに対し、免許のないまま乗ることが分かっているのに原付二種のバイクを販売することはないだろうが、店が売らなくても知り合いの所有する原付二種に乗ってしまうかもしれない。原付一種しか乗れないユーザーに対し、販売店でも「新基準原付と原付二種は、ルールも免許も全く違う乗り物」と、しっかり伝えておく必要があるだろう。それがユーザーを守ることにもつながっていくのだ。
そして、オークションではすでに50ccの金額が上がり始めている。今後、どのような新基準原付が登場してくるのかは分からないが、販売店としては、中古50ccの動きにも注意しておきたいところだ。
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