公開日: 2023/04/05
更新日: 2023/04/05
2022年、ハーレーは登録台数において1万台突破という大きな実績を上げた。これは過去6年間における最高記録となる。HDJの野田社長は、コロナ真っ只中の2020年に就任直後、“日本と世界とのズレ”の修正に着手した。1万台という数字は、その成果といえる。
――― 四輪メーカーのマツダからキャリアをスタートし、BMWジャパン、アウディジャパンを経て、トライアンフでトップ。そして2020年、ハーレーのトップに就任されました。決断の理由は。
野田 オファーをいただいたのですが、最初は全く受けるつもりはありませんでした。でも、知らず知らずのうちに、頭の中でシミュレーションするようになったのです。自分が担当するなら、こうしよう、とか、マーケットはこれだけあるので、これだけの台数を、みたいに。これって私の趣味みたいな感じなんです(笑)。そうこうしているうちに、だんだん気持ちが傾いてきて。トライアンフ自体も強い基盤ができつつあり、ひと区切り付いたという認識もありました。このオファーをもし断ったら、人生の最後を迎える時、どう思うか、ということまで考え、最終的に受諾を決意しました。
――― 2022年の新規登録台数が1万台を突破しました。2021年発表の「パンアメリカ」や「フォーティーエイト ファイナルエディション」「スポーツスターS」などが市場をけん引した。
野田 これらのモデルが着実にファンを増やしたのは事実です。私は就任からちょうど2年が経過しますが、1年目はコロナがまだ厳しい時期で、弊社も正規販売店も行動が制限されていました。そこで、今できることについて、もう一度、基本に立ち返り再構築しました。例えば販売台数。車両が1万台あって、それを100店舗で売るとなると、1店あたり100台を売らなければならない。それを12か月で考えると、月8台以上です。そうなると、来店者もこれくらい必要、という数字が出てきます。でも、同じ1万台でも、売りにくいモデルや不人気カラーで1万台となると、難易度が上がります。その辺りの調整も行いました。
――― 売りやすい車両のラインアップ強化ということですね。他には。
野田 広告もそう。新型車のリリースに合わせ広告を出稿しますが、掲載写真については、本当にこのアングルの写真がお客様の心に刺さるのか、とか、お客様が求めている情報が入っているのか、などについても検証します。そういう部分が疎かになると、実績も上がりません。私が赴任した時に感じたのは、そうした基本や方向性の微妙なズレでした。それを1年掛けて修復したのです。
――― 効果が明確に表れたわけですね。ディーラーとのコミュニケーションについてはどうでしょう。
野田 いま、正規販売店は全国で110店あるのですが、就任以降、全店を訪問しヒアリングを行ってきました。そこで分かったのは、ディーラーのポテンシャルについて。ハーレーは元々、ブランド力はかなり高いのですが、それを扱うディーラーの能力も高い水準にある、ということでした。1万台を達成できたのは、ディーラーの努力の成果だと思います。
――― ジャパンのトップは暫く外国人でしたが、今は日本人である野田社長がトップとなりました。
野田 かつて日本人社長の時代に、ハーレーの日本での方向性ややり方が確立されました。その一方で世界が目指す方向性とのかい離が見え始めたのです。その後、世界との足並みを揃えるという意味で、複数の外国人社長が就任しました。彼らの強みは本国とのつながりであり、英語でのコミュニケーションです。一方で日本人の気持ちを100%理解したうえでコミュニケーションが図れていたわけでもなかった。一長一短あるわけです。そうしたなか、すでに確立されていたものが時代に合った状態にモダナイズされワールドワイド化されたことで、逆に方向性が定まらなくなった部分もあった。そこで、ディーラーを訪問し、オーナーの話を聞いて“交通整理”を行った、ということなのです。
――― 先ほど、かい離が見え始めた、という話がありましたが、例えばどんな?
野田 例えば日本だけのオリジナルデザインがあったとします。国内ではお客様からすごく評判がよく喜ばれていても、ハーレーというブランドは世界共通。日本だけが独自路線を歩むという考えはないのです。例えるならマクドナルド。どの国で食べても同じ味。もちろん、その国独自のテイストはあっても、それは大きな方向性に影響するものではない。ここをポイントに、“日本と世界とのズレ”を修正しました。
――― 世界ブランドである以上、看過できないところなのですね。
野田 いまは、そうしたズレは一切、ありません。今回のモデルイヤー23の発表についても、本国で世界同時に発表会を開催し、それに続いて各国が発表する、という流れを、本社とコンセンサスを取りながら構築しました。大切なのはアメリカとの連携です。これは決して昔が悪かったというわけではありません。時代背景もあるし、マーケットが右肩上がりの時期なのか、あるいは今のような成熟市場なのか、によっても戦略は変わります。コスト管理も関係しますよね。コロナの影響で、推進するべき業務のチューニングができていなかったのですが、これを行うのも私の仕事です。
――― コスト増や納期の長期化は、どのメーカーにとっても深刻な問題。ハーレーでの対応は。
野田 まずは企業努力です。コストの効率化は、絶対にやるべきこと。そこは徹底しています。費用対効果についても、お金を使わないのではなく、使ったら、確実に効果を上げる、ということが求められる。その意識を持って取り組んでいます。ただ、企業努力で全てを吸収できるわけではありません。お客様には迷惑を掛けないようにしたくても、現実的にそうは行かないところもある。なかでも輸送費は凄まじい勢いで上昇しています。一時期はコロナ前の3倍の時もありました。加えて為替の問題もあります。そのため、やむを得ず価格改定を行い、一部、お客様に負担をお願い致しました。
――― 供給量について、最も厳しかったのはいつ。
野田 2021年ですね。輸送が混乱し始めた年で、コンテナが全然ないアメリカからの輸送がメチャクチャでした。あの頃は、相当なご迷惑をおかけしていたと思います。もちろん、可能な限りの手は打ちました。その結果、2022年は大きく改善しました。数字的にも過去6年間で最も良かったです。
――― 2022年はコロナ前と比較し、どこまで回復したのでしょうか。
野田 コロナ以前は、一番潤沢な時で、どのお店にも常に商品がズラッと並んでいる状態でした。それが、コロナ禍で入荷が追いつかず在庫は減少の一途でしたが、2022年末までに、コロナ以前の8割ほどに回復しました。以前はディーラーには若干多めに車両を在庫していただいていましたけど、そこからちょっと少ないくらいが妥当なラインというところで方向を改めました。ですので、100%以上の在庫が常態化していた時に比べると、当時の8割ほどではありますが、決して少ないわけではないのです。いまはショップに行っても商品がない、ということはありません。
――― ディーラー政策については如何でしょう。
野田 良い商品を良い環境のもとお客様にお届けするのが我々の使命です。そのため、やみくもに店舗を増やすことは考えてません。ディーラー側もそうした体制作りが必要となるので、利益を出していかないといけない。ディーラーの数が増えると販売台数も増えます。それはありがたいことではありますが、その一方で、数が増えれば増えるほど、ディーラー同士の競争が激化します。現在の110店という店舗数については、我々はバランスが取れていると思っていますので、店舗数を追い求めることは、全く考えていません。
――― 適正ということですね。
野田 この話をすると、『じゃ、減らすんですか』と聞かれることがありますが、そんなことも一切考えてません。良いものを届けるということを狙った時に多少、店舗数が変化することはあると思います。別々のエリアにそれぞれ店舗を展開している会社があるのですが、それを大きな店舗1店に集約しよう、という計画があります。全機種をラインアップし、サービス面においても、長時間お待たせすることのないような、しっかりとした体制づくりを行うことが目的です。47都道府県の平均店舗数は2店舗ですが、人口密度や保有台数などを鑑み、お客様に最適なサービスを提供するにはどうすべきか。これを第一に考えるべきなのです。
――― ユーザーは、ハーレーディーラーに対し、どのようなことを望んでいるのでしょうか。
野田 いま、四輪ディーラーは、店舗がどんどん大型化しています。これは最近の傾向と言えるでしょう。我々は二輪だから関係ない、と考えるべきではありません。高額なハーレーを所有しているお客様のなかには、高額なクルマに乗っている方も多くいらっしゃいます。そういう方は、「ディーラーはこういうもの」というイメージを抱いてます。彼らにご満足いただくためには、拡張や統合も必要なのです。
――― ストアデザインも進化しているようですね。
野田 以前は工場風のデザインや昔のアメリカの田舎の雰囲気を表現したデザインだったりと、複数のテーマがあったのですが、いまは1つのテーマに統一しています。オレンジのコントラストを用い、ロゴを新しくアップデートして、デザイン面での大きな特徴としました。ガラス面を多用した、明るく入りやすい店舗デザインとなっています。以前は店内をゾーニングし“世界観”を表現していましたが、狭く見えてしまうこともあり、それを解消したのです。
――― イメージもかなり変わりましたね。
野田 ハーレーには強烈なブランドイメージがあります。なかには、『刺青をして革ジャンを着た怖いオジサンが、爆音をまき散らし走っている』という様子をイメージする人もいるでしょう。でもいまは、これを一新するような、クリーンで明るい雰囲気が醸成できていると思います。
――― こうした変革も踏まえたうえで、2023年はどの程度の販売台数を見込んでいるのでしょうか。
野田 去年、1万台を達成し前年比で35%ほどアップしました。今年はそこまでの増加は難しいとは思いますが、販売増は見込んでいます。けれども、決して台数だけを追い求めているわけではありません。我々の長期戦略には6つの柱があります。まずは『収益性重視』。ビジネスである以上、利益を出さないと意味がありません。バブルの頃は利益を度外視し、台数を追い求めた風潮があったと思いますが、先ほどお話ししたように、いまはそうした考えは一切ありません。逆にいうと、そんなことしなくても、お客様に支持していただける、魅力のあるブランドだと思っています。
――― 先ほどディーラー全店をすべて訪問したという話がありましたが、それ以外のディーラーとのコミュニケーション手段は。
野田 先日、全販売店を招いたディーラー会議を開催しました。施策の話、優秀ディーラーの表彰などを行い、一緒に食事をとるのですが、お酒を飲みながらのコミュニケーション、これがとても重要だと感じています。
――― 自分たちが思っていることを、自由に話して貰うことが問題点や改善点に発掘に繋がるわけですね。先ほどのディーラー訪問の話ですが、バイクで行くこともあるそうですね。かなり距離が縮まると思います。
野田 そう思います。第一声はたいがい「エッ、何をしているんですか?」です。アポなしで行くので驚かれますが、喜んでいただいていると思います。今回、魔裟斗さんに、ブレイクアウトの発表会に出演していただきましたが、いま、YouTubeの「魔裟斗チャンネル」をはじめメディアへの出演を増やしています。顔を出すことで、一般ユーザーの方々はもちろんですが、ディーラーへのメッセージにもなると考えているからです。
――― 今年はメモリアルイヤーですが、それに向けた企画は。
野田 計画通り進める予定です。目玉のブルースカイヘブンも8月に開催します。ハーレーを購入される方は、一様に憧れを持っています。ただ、2020年や2021年に購入されたお客様に対しては、、コロナの影響により、あまり遊びの提供、楽しさの提供が満足にできていません。ハーレーの良さというのは、買った時の嬉しさはもちろんですが、その後の遊びを通じて強く実感できるものなので、そこをもっと知っていただくための活動に力を入れていこうと考えています。
――― 今年の見通しはどうでしょうか。
野田 ビジネス環境は改善されると思います。昨年は為替相場やコスト高でかなり苦しみました。価格に転嫁せざるを得ない状況でしたので。今年はそれ以前の状況に完全に戻るかというと、それはないと思います。円安、コスト高は当面続くと見ていますが、私は厳しい時こそ自分の強みをさらに強化するべきだと思いますし、今やれること、今やるべきことをしっかりやること。厳しい、キツイと言ったところで何も解決しません。ディーラー会議では、厳しいのはみんな同じ。その状況下で何ができるかによって、後々、大きな差ができるのです、とお伝えしました。
――― 日本の販売台数はアメリカに次いで世界2位だとか。
野田 はい。それまでは、4位か5位だったと思いますが、ついに2位にまで浮上しました。アメリカが首位なのは当たり前ですが、北米ではカナダが、ヨーロッパではドイツが強いです。大きな差があるわけではないので、彼らも追いかけてくると思います。でも負けるつもりは全くありません。意地でも地位を守りたいと思います。
――― アメリカの、日本のマーケットに対する信頼感は高いと思います。
野田 日本市場への期待度は、想像以上に高いです。台数が増えたということだけではなく、日本という国に対する信頼感の問題です。政治や経済も比較的安定しているし、南米のように、急に財政破綻してしまうこともありません。日本のスタッフは、やるといったら必ず成し遂げます。そこの部分の信頼感は、かなり高まっていると思います。この背景にはディーラーの力があるのです。1万台を達成できたのも、彼らに頑張っていただいたからです。コロナ禍でハーレージャパンが機能しなくなるようなことは絶対に避けなければならないので、ハーレージャパンとしてはリモートで業務を行うこともありましたが、ディーラーの皆さんは、お客様ありきなので、お店を閉めるわけにはいかない。相当なストレスもあったと思います。感染リスクと隣り合わせだったわけですからね。そういう努力があったうえでの1万台達成なのです。ディーラーの皆さんには本当に感謝しています。
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