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【トップインタビュー】フェンダー・ミュージック株式会社 エドワード・コール 代表取締役社長

公開日: 2024/01/17

更新日: 2024/01/17

楽器を演奏しない人でも、一度は名前を聞いたことがあるであろうギターやベース、アンプのブランド『フェンダー』。フェンダーミュージカルインストゥルメンツコーポレーションとフェンダー・ミュージック株式会社(日本法人)は2023年6月、旗艦店『FENDER FLAGSHIP TOKYO』を東京都渋谷区神宮前の明治通り沿いにオープンした。なぜ、原宿に近いこの場所にフェンダー初の旗艦店を開いたのか。オープンから数か月経った現在、狙い通りの成果を上げているのだろうか。同社代表取締役社長兼アジアパシフィック統括のエドワード・コールさんに話を聞いた。

『FENDER FLAGSHIP TOKYO』をオープンした2023年、過去最高の成長率を達成

まるでアパレルブランドの店舗のような外観
まるでアパレルブランドの店舗のような外観

旗艦店とは何か。「モノを売る」ことに注力する販売店との違いをザックリ言うと「ブランドを売る」店のこと。もちろん、製品も販売するが、ブランド訴求やイメージアップなどブランドの価値を高めることに重きを置いたショップが旗艦店だ。

――― フェンダーの日本法人『フェンダー・ミュージック株式会社』の設立は2015年。コール社長はその際、指揮を執ったと聞きました。

コール
 フェンダーに入る前は、ラルフローレン・ジャパンで社長を務めていました。アジア太平洋地域のビジネスを率いて欲しいというフェンダーからの誘いを受け、2014年9月にフェンダーに入り、アジアパシフィックの統括に就任。その初日から自宅の地下の部屋で、戦略計画を考え始めました。そこで立案したのが、東京に旗艦店をオープンするというものでした。

――― その旗艦店が、『FENDER FLAGSHIP TOKYO(フェンダーフラッグシップトウキョウ/以下、FFT)』ですね。

コール
 そうです。フェンダー・ミュージックが設立され、社長に就任した2015年から本格的に計画を策定し動き始めました。フェンダーは世界でナンバーワンのエレキギター、ベース、アンプの会社ですが、私たちのミッションは業界全体が成長を遂げるための働きかけであると考えます。FFTを開くにあたって、まずはいろいろな場所を見て、ロケーションを探しました。最終的にはここに決めたのですが、その理由は主に3つあります。

世界で最も活力を感じるリテール業界の中心地に旗艦店をオープン

空間を贅沢に使った店内
空間を贅沢に使った店内

――― それは何でしょうか。

コール
 私はこれまで80の国や地域で仕事をしたり、あるいは居住した経験があるのですが、東京の表参道と原宿をつなぐこの通りが、世界中で最も活力があり、洗練されたリテール業界(小売業界)の中心地だと感じました。そこに私たちの旗艦店を開きたいと思ったのです。

――― 『活力』が大きなポイントだったわけですね。2つ目は。

コール
 これは私の個人的な意見かもしれませんが、日本が世界で最もブランドに対する教育レベルが高く、また見る目のある消費者がいる場所だと感じています。それが日本の大きな特徴でしょう。そのような方たちは商品の中で最上のものを求めますし、接客にしても、カスタマーサービスにしても、品揃えにおいても最上のものを求める。表参道はそういう場所として注目していました。また、1950年代にロックンロールが始まってから、エルビス・プレスリー、ビートルズ、レッド・ツェッペリン、ローリング・ストーンズなどの音楽が生まれ、それらがファッションとライフスタイルを牽引してきたと思います。ロックンロールとかギターを使った音楽がファッションやライフスタイルを引っ張っていくことから、この場所がベストだと思いました。

――― 『ハイレベルな消費者』が集まったエリアということですね。3つ目は。

コール
 外国人観光客の多さです。2023年、日本を訪れる外国人観光客が3000万人を超え、2030年までには1年間で6000万人に達するのではないかという予測が出ています。そういう方たちは日本の食を堪能するのはもちろん、明治神宮など日本の美しい観光名所も巡りたいと思っています。そんななか、彼らが何よりも楽しみにしているのは、買物体験だと思います。コロナが蔓延していた時、アメリカだけでも1600万人、世界では3000万人以上の人たちが初めてギターを手にとって弾くようになったと言われています。フェンダーのそもそものミッションは、音楽のどの段階にいるプレイヤーであっても支えるということ。私たちのお客様のうち50%が初めてギターを始める方。そしてその半分が女性なんです。その方たちは、ルイヴィトン、シャネル、アップル、ナイキなどでも買物をします。そんな方々にギターを弾いてみたいと思っていただくには、素晴らしい買物体験自体の提供が必要なのです。

日本の方々には、何か独特な『美』を感じる不思議な力がある

1階(写真上)には人気の高いファッションブランド「F IS FOR FENDER」を、地下1階(写真下)は大人気のカフェを併設
1階(写真上)には人気の高いファッションブランド「F IS FOR FENDER」を、地下1階(写真下)は大人気のカフェを併設

――― 日本には目の肥えた消費者が多いという話がありましたが、なぜそう感じたのでしょうか。

コール
 外国人として日本で暮らす上で経験したことですが、日本人は何をするにしても『そこそこで満足する』ということは、あまりない。自分の好きなことを深めて、自分にできるベストを実現しようとする。例えば贈り物をいただくとします。品物の品質の高さはもちろんですが、包装にも配慮している。こんな経験は日本以外ではできません。日本人は細部にも目が行き届き、美しさにもこだわる。その感覚がとても洗練されているのです。他の人には捉えられないような美しさを日本人は見いだすことができるのです。

――― どのような時にそれを感じますか。

コール
 2つ例を挙げると、1つ目は花見。桜の季節には多くの外国人が来日し、桜を鑑賞します。歩き回りながら「綺麗ね」と、全ての桜が綺麗だと言います。けれども日本人は、歩きながら、ある1本の桜を見つけると、そこに近づき「とても綺麗だ」と、じっくり鑑賞する。日本人の妻に「どうしてこの木がそんなに綺麗なの?」と聞くと、「分からないの? これが一番綺麗でしょう」と言われる。この感覚が私には分からないのです。でも、妻には、私に見えていないことが見えている。それを理解できるのが日本人なのだと思います。こんな経験は日本でしかできません。日本人は何か独特な、『美』を感じる不思議な能力があると思います。

――― 日本人特有の感性なのかもしれません。

コール
 リテールの経験で話しますと、ラルフローレンの日本の旗艦店で仕事をしていた時のことです。秋の新商品が入ってきたので、アメリカからビジュアルマーチャンダイジングの担当者が10人来店し、店内に商品をディスプレイしました。でも、彼らが手がけたディスプレイでは売れませんでした。でも、日本のビジュアルマーチャンダイズの担当者たちが手直しをしたら、次の日に一気に売上が増えたのです。バランスが取れたレイアウトなのです。それは日本人だけではなく外国人が見ても「これは美しい」と思えるものでした。それが一度ではなく、何度も繰り返し起きたのです。

今後数年間は『FENDER FLAGSHIP TOKYO』の成長と発展に注力

バイクを10台以上所有。写真はお気に入りの「インディアン チーフ ヴィンテージ」
バイクを10台以上所有。写真はお気に入りの「インディアン チーフ ヴィンテージ」

――― 旗艦店に来店できる人は、実際に商品を手に取ることができますが、地方の人はなかなか来店できないと思います。そうした人たちをもっと開拓するための戦略は。

コール
 この店は実体験をしたい人、出かけて、触って、買いたいと思う人たちのためにあります。私が皆さんにお薦めしたいのは、私たちはリアルな世界、実店舗で実際の商品を販売しているので、東京に出かける機会があったら、より深い体験ができるFFTにぜひ足を運んでいただきたい、ということです。

――― オープンから4か月(取材時)が経ちましたが、現在の販売状況はいかがでしょうか。

コール
 予測をはるかに上回る結果が出ています。私の期待も上回っています。特に驚いた点は、まず旗艦店と同時にローンチしたファッションブランド『FISFOR FENDER』の人気がすごく高い、ということです。高価なストリートファッションで、真新しいブランドでもあるのですが、人気が高く私たちの想像をはるかに上回る実績を上げています。FFTにはお買物中のお客様に対するおもてなしの場として作ったフェンダーカフェが地下にあるのですが、ここも私の期待以上の成果を上げています。ファッションブランドに関しては、例えばハーレー・ダビッドソン。ハーレーのバイクが好きだという人たちは、バイクだけにとどまらず、ファッションとかライフスタイル、ハーレーのコミュニティをとても気に入っている。バイクそのものだけではなく、それに関わるライフスタイル製品からも大きな収益を得ていると思いますが、それと同じだと感じます。次にカフェ。1人のお客としての意見ですけど、フェンダーカフェのオリジナルブレンドとサンドイッチがすごく美味しい。特にハムチーズのサンドイッチ。ファッションもカフェもですが、一切妥協せずに本気で提案しています。それが、リピーターのお客様がたくさんいらっしゃる理由だと思っています。

――― 予測をはるかに上回る結果が出ているとのことですが、計画比でどれくらい上回っているのでしょうか。

コール
 2023年、日本全体のビジネスでは20%アップしています。マーケットシェアとか販売店も含めて、ビジネス全体が成長しています。このFFTをオープンしたことによって、5%程度の成長が見込めると考えていましたが、販売店を含めて、私たちの事業全体で前年同期比20%を超える成長となりました。これはフェンダー・ミュージックにおける過去最高の成長です。

――― 今後に向けた新しい展開について教えて下さい。

コール
 日本におけるプランとしては、今後の数年間はFFTの成長と発展に注力し、FFTで学んだことは販売パートナー店と共有していこうと思います。それ以外の展開としては、アジア太平洋地域でも事業拡大のチャンスがあれば、旗艦店をオープンするかもしれませんよ。そうなったら様々なプランニングが考えられるでしょう。それを思うとワクワクしてきます。

――― 最後の質問です。先ほどハーレーの話が出ましたが、バイクもお好きのようですね。

コール
 はい。大好きです。日本では2台持っています。インディアン・チーフとBMWモトラッド・R nineTです。アメリカでは12台持っています。一番好きなバイクはヤマハTW200。本当に大好き。素晴らしいバイクです!

――― ありがとうございました。



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