公開日: 2025/03/24
更新日: 2025/03/26
わずか2年半で店舗数を342店にまで拡大し急成長を遂げた鰻の成瀬。この背景には職人レスによる店舗オペレーションがあった。独自の仕入れルートとボタン一つで鰻を蒸して焼く調理システムの導入により、「串打ち3年、裂き8年、焼き一生」と言われる概念を覆した。躍進の内情について、山本社長に話を聞いた。
日本の食文化を語る上で欠かせない食材であるウナギ。蒲焼として室町時代から食されており、多くの日本人が好むことで知られる。いまではインバウンド需要も多く、日本旅行の目的の一つとして挙げられるほど人気が高まっている。
最近、街中で同一店名の鰻屋を見かける機会が増えた。店の看板には「鰻の成瀬」と記されている。鰻屋でフランチャイズなのだろうか。
FCビジネスの市場規模は日本フランチャイズチェーン協会統計調査によると、2023年度実績で28兆円。なかでも飲食業界はFCビジネス花盛りだが、うな重でFC展開とは、ついぞ聞いたことがない。そこで調べてみたところ、「鰻の成瀬」はここ最近、店舗を急速に拡大していることが分かった。展開するのはフランチャイズビジネスインキュベーション株式会社(山本昌弘社長、以下FBI)という企業であった。フランチャイザーとして、FC展開しているのだ。同社が支援するビジネスは複数ある。そのうち「鰻の成瀬」ともう一つはFBIがフランチャイザーであり、他は同社がコンサルティング業務を手掛けている。
FBIを率いる山本社長は41歳(取材時)。若くしてFCビジネスを成功に導いた人物だ。
――― 「鰻の成瀬」をオープンしたのはいつでしょうか。また、現在の店舗数を教えて下さい。
山本 2022年です。9月に1号店を出店しました。いま(1月末日現在)は342店です。
――― 破竹の勢いとは、まさにこのことですね。山本社長はまだ41歳と、FCビジネスの経営者としては若いほうだと思います。現在までの経歴について教えて下さい。
山本 高校卒業後、3年間、イタリアへ留学していました。
――― イタリアとは珍しいですね。アメリカやイギリスなど英語圏の国は選ばなかったわけですね。
山本 英会話ができるようになっても、人と差別化が図れないと思ったからです。英語を話せる人はたくさんいますからね。母がオペラ歌手としてイタリアを拠点に活動していたのも、イタリアを選んだ理由の一つです。
――― ということは、英語よりも先にイタリア語を覚えた。
山本 語学学校に通いながら3か月である程度、会話ができるようになりました。イタリアで生きて行くためには、会話ができないと話にならないので、必死に勉強しました。例えば、シャワーを浴びる際、ガスの元栓の開け方の説明を受けたのですが、全く分からず冷水を浴びたり、バスで自分が降りる停留所が分からず、誰にも聞けないまま終点まで行っちゃったり。これでは生きていけない、と考え、勉強の仕方を工夫したのですが、ある日の授業でいきなり先生の言うことが理解できるようになったのです。あ、これでもう大丈夫だ、と思ったことを覚えています。
――― 急に理解できるようになる、という話は、よく聞きますね。帰国後は。
山本 日本に戻ってからは、将来的な起業を念頭に英会話スクールのECCに入社し、そこでFCビジネスについて学びました。その後、今度はハウスクリーニングを全国展開するおそうじ本舗に入社し全く別の角度からFCについて勉強した後、2020年に独立しFBIを設立しました。
――― なるほど。独立前にFCビジネスのノウハウについて、分野の異なる2社から学んだということですね。
山本 FBIは元々、アーリーステージ(起業直後)のFC本部を支援するコンサルティング会社として創業しました。飲食業界や教育業界の企業を中心にサポートしてたのです。けれども進めていくうちに、自社でもFC本部を立ち上げよう、という流れになった。そこで、創業から2年後の2022年に『鰻の成瀬』を事業としてスタートしました。
――― 御社のホームぺージには「鰻の成瀬」のほか、「あん食パンのPANTES」「THE DOG Salonトリミングワゴン」「ソーシャルスキル&個別療育教室ブロッサムジュニア」「本格よもぎ蒸しサロンaUN」が記されてます。
山本 「鰻の成瀬」と「本格よもぎ蒸しサロンaUN」以外は弊社がコンサルティングサービスを提供しています。「本格よもぎ蒸しサロンaUN」はこれからのFCで、現在、直営2店舗とFC2店舗の計4店を展開しています。
――― FCビジネスの市場規模は28兆円と言われてますが、なかでも飲食業は成長速度が速い。現在、全国に342店とのことですが、わずか2年半という短い時間で急成長できた理由はどこにあるのでしょうか。
山本 まず、飲食店業界の課題解決をしたいという思いが根幹にありました。分かりやすくいうと、飲食業界はすごく廃業率が高いんです。その理由は、立地ビジネスになっているからです。一等地を取らないと経営は難しくなる。でも、初めて独立した人が一等地の物件を確保するのは、かなり難しい。なぜなら、物件情報はまず大手に入ります。理由は資本の大きいところに貸したほうが大家も安心だからです。結局、申し込んでも大手には負けてしまいます。そこで考えたのが、二等立地でも三等立地でも勝てる業態でした。その答えが鰻屋だったというわけです。
――― 鰻はブームに左右されない目的来店型の店だから、特段、一等立地でなくても集客は可能、ということですね。
山本 はい。だから私自身、鰻が好きとか飲食業に特別な思い入れがあるというわけではないんです。純粋にビジネスとして業界が抱えている問題を解決することに興味がありました。
――― 加盟店急増の最大要因は何でしょうか。
山本 “職人レス”でウナギを提供できるノウハウをもつ企業がありまして、そこと業務提携しました。ウナギを美味しく調理できる調理システムを開発した企業で、オペレーションに関するノウハウをはじめ、独自の仕入れルートも持っています。ただ、それをビジネスとして拡大するノウハウはない。そこで、その企業とタッグを組み、お互いの良いところを出し合いビジネス展開しよう、ということで始めたのです。「鰻の成瀬」のFCパッケージはウチとその会社、そして加盟店の3者間契約となってます。加盟金やロイヤルティについては、両社間で決めたルールに基づき分配されます。ウチとその会社の2社で加盟店を支援する、そんなイメージです。
――― 店舗は何名ぐらいで回しているのでしょうか。
山本 2名から3名です。ボタンを押すだけで蒸して焼けるので、職人は要りません。アルバイトスタッフでもできるので、人件費を大幅に抑えられるというわけです。オーダーから提供までの時間は、最短で5分。月あたりの平均売上は、テイクアウトも加えると300万円です。テイクアウト比率の高い店もあれば、ココ(六本木店) のように、ほとんどない店もあります。
――― 誰が調理しても同じクォリティの料理を提供できるのが、躍進の大きな理由ですね。価格の安さも魅力です。
山本 並の梅が1600円、竹が2200円、松が2600円です。これが最初に決めたベース価格です。一番安い梅は2000円以下に抑えたいと考えました。2000円の壁は大きいので、原価率ギリギリのラインである1600円で設定しました。ウチと同じような“職人レス”の鰻屋さんが後発で出たのですが、そこの価格は後発でありながらウチよりも高いんです、結果的にウチのプライス設定は正しかったのだと思います。こだわる人は5000円、6000円出してでも高級店に行きます。ウチはその層を狙ったわけではなく、価格と食後の満足度、そこに焦点を絞りました。日常食として食べていただければいいという考えです。タレについても試行錯誤しました。当初は関西の鰻屋さんから卸してもらっていましたが、甘く粘度が強かったので、醤油で割って使っていました。でも、これだけ店舗数が増えると、色々な問題が出てくる。そこで、専門業者とタッグを組みOEM化して出来上がったものが各店舗に届く方法に切り替えました。
――― 加盟の問い合わせは頻繁にあると思いますが、加盟にあたっての審査基準は。
山本 「鰻の成瀬の看板で儲けたい」「本部が何とかしてくれる」ーー。そんな考えの人はお断りしています。事業として捉えず、とりあえず店を出しておけば何とかなる、という考えの人です。加盟の可否については、いまは別のスタッフがジャッジしていますが、昔はすべて私がやってました。やはり自分で物件を持っている方が多いですね。なかには自分で契約した賃貸物件があり、そこで開業したい、という人もいます。先ほどお話しした、ビジネスに対する考え方に問題がなく、また、お客さんを奪い合うようなカニバリゼーションがなければ、審査は合格です。
――― FC本部と加盟店との間でトラブルが発生することもあると思います。何か対策を講じていますか。
山本 オーナーの考え方、つまり加盟の際の“入口”を間違わなければ、トラブルはある程度は防げます。あとは極力、本部の都合でコントロールすることは避ける。これも大きなポイントです。何か問題が発生すると、必ずそれを共有し不信感は残さないようにしています。そのためにも加盟店さんとは定期的に勉強会を開催しています。月に1~2回ですね。1日の売上報告については、これも全オーナーで共有し、誰でも他店の実績を確認することができるようにしています。顔も知らない者同士の売上を見て発奮材料にするわけです。
――― 海外展開については如何でしょうか。
山本 すでに韓国に1店、香港に2店出店しています。この後も海外需要を伸ばしていくのでいま、動いています。場所はアジアに限定したわけではありませんが、台湾には現地法人を設立し直営店を出店しようと考えているところです。アメリカは西海岸が候補地。いま現地調査を行っています。それ以外の国については、国ごとの法律の問題があるのでFCになるのか、あるいはそれ以外の契約になるのかまだ分かりませんが、海外進出をどんどん進めていく計画です。国内については、先ほどお話ししたように、現在の店舗数は342店ですが、アッパーを400店で考えています。期日は設けてはいませんが、今年の夏には達成できるものと見ています。
――― この先、飲食業界で参入を考えている新しい業態はありますか。
山本 儲けたいというのは、私のモチベーションではないんです。何か、それこそ業界を変えられたりとか、社会課題を解決できたりとか、そういう部分と一体となって展開したいという思いがあります。ただ、いま日本は人口が減少し東京一極集中が加速していますよね。地方が弱体化し優秀な人材が地方に残りにくい状況になっています。そのため、地方でゼロから1を作ることは、あまりない。だからこそ地方でも展開できるFCがあれば、町の活性化にも貢献できると考えています。フランチャイズと地方創生を掛け算で展開できるような業態を今後は作っていきたいですね。
フランチャイズビジネスインキュベーション株式会社(FBI)は、国内外のフランチャイズ展開を望む企業・事業オーナー様に専門的なFC本部支援を行うコンサルティング会社です。
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