公開日: 2023/05/30
更新日: 2024/10/04
ソデホンの愛称で知られ、二輪業界で高い知名度を誇る有限会社袖ヶ浦ホンダ。同店は昨年、本店、五井店、ホンダドリーム袖ヶ浦の3拠点体制のもと、2400台以上を販売。そんな同店の強みは、1965年の創業以来、50年以上にわたり“ソデホン”というブランドを築き上げてきた小林宏子社長のイズムを継承したスタッフにあった。
「ソデホンはバイクという商材をとおして、ステークホルダーにバイクのある人生を提供します(原文ママ)」
これは、有限会社袖ヶ浦ホンダ(以下、ソデホン)の社是の一文。同店の一日は朝9時30分、スタッフ全員による社訓・社是・経営理念の唱和から始まる。
「唱和がないと、一日が始まった感じがしない」と語るのは、ソデホンの小林宏子社長。上記の社訓や社是は、会社をどうしていきたいか、またスタッフが目指すべき姿など、小林社長の考えを言葉に表したものだ。
ソデホンは1965年、亡夫の小林武男さんが四輪販売店として、現在本店を構える袖ヶ浦市に創業した。当時はクルマがあまり普及していなかったこともあり、バイクや自転車、船外機など、幅広い商材を扱っていたという。創業時のことについて小林社長は、次のように振り返る。
「他店に負けたくない、との思いで必死に働いていました。そのため、クルマが故障した、との連絡があれば自らトラックを運転して店舗まで引き上げ、修理を行っていました。男性であっても素人ではなかなかできないことをやっていたので、私に敵わない人が多くいました(笑)」
創業から7年後の1972年には法人化し、このタイミングで二輪を主体とした販売へとシフトしたという。
「法人化のタイミングで四輪の認証工場としての稼働を考えていたのですが、敷地面積が足りず、実現できませんでした。そこで主人と話し合い、元々バイクも扱っていたこと、そして近隣に二輪販売店が少なかったこともあり、バイクを本格的に扱うことにしたのです」
また同年には、事業拡大のため自転車を専門に扱う「シーエスアオバ(市原市)」を開業。同店は小林社長の弟の主計(かずえ)さんに経営を任せた。現在ではソデホンから独立し、「有限会社シーエスアオバ」を設立。主計さんのご子息である小柳慶さんが店長を務め、ホンダ・スズキ・ヤマハの正規取扱店として二輪販売店を営んでいる。
さらに1985年には、商圏拡大のため市原市に「袖ヶ浦ホンダ五井店(以下、五井店)」をオープン。同店は現在、20~40代のユーザーが増えており、原付一種や二種などの小排気量モデルが人気となっている。一方、本店は50~60代のユーザーが多く、五井店よりも大型車両が売れる傾向にあるという。
小林社長がソデホンのトップとなったのは2007年。武男さんが病気を患い、店に顔を出すことが難しくなったのを受け、社長に就任した。以降、現在まで50年以上続く名店の指揮を執り続けている。
ソデホンは国内4メーカーの正規取扱店。昨年の販売比率はホンダ4割、スズキ3割、カワサキとヤマハがそれぞれ1.5割。そのなかで新車は9割、中古車は1割となっているが、驚くべきは販売台数にある。昨年は新車の供給不足により、売りたくても売れない、という状況の中でも、本店と五井店合わせて2000台以上販売しているのだ。
この背景には大きな企業努力がある。女性ユーザーに人気の高いレブル250でも、リーズナブルな価格で販売しているのだ。
「お客さん目線で考えれば、バイクを購入する際にまず考えるのは価格。ウチは都心部で店を出している販売店とは固定費が違うため、企業努力で安く仕入れた分だけお客さんに還元して喜んでいただく、これがソデホンのモットーです」
販売台数2000台以上、というのは目を見張るような数字だが、現在に至るまで、順調にことが進んできたわけではない。ご存じの通り、メーカーが販売網の再構築を開始。2017年からはカワサキ、そして2018年からはホンダが新体制へと移行した。
ソデホンはメーカーの政策が始まる前まで、大型車両を多く販売。全体の販売台数のおよそ4割を大型車両が占めていた年もあったため、昔から付き合いがあるユーザーは、大型車両を買うならソデホン、といったイメージが強いのだという。
「昔から大型車両を整備できるスタッフが何人もおり、販売台数も多かったので、メーカーの政策によって扱えなくなるとなった際、多くのお客さんから、『ソデホンで大型車両を購入し続けたい』と言われていました。やはり、ホンダドリームでいくしかない、と決断に至ったのです」
小林社長は2019年、株式会社SODEHONコーポレーションという別会社を設立し、本店から建物を1つ挟んだ100mも離れていない場所に「ホンダドリーム袖ヶ浦」をオープン。同店は2022年に約400台販売しており、ソデホンの大きな柱となっている。
さらに、2020年よりカワサキの大型車両が扱えなくなることを受け、ソデホンでは次のことに取り組んだ。
「人気になると予想したZ900RSを70台、Ninja ZX-14Rファイナルエディションを30台ほど、カラーを指定した上で2019年に仕入れました。特にZ900RSは飛ぶように売れ、両モデルは2021年に完売。昨年も売上は悪くありませんでしたが、2021年はさらに良かったです」
100万円以上する大型車両を100台以上仕入れた資金は、どのように調達したのだろうか。
「私は景気が良い時であっても、高級外車を購入し乗りまわすなど、プライベートで多額のお金を使うような贅沢をしたことは一度もありません。ソデホンの発展のため、ここだと思う時に使えるようずっと溜めてきました。そのため、銀行からお金を借りることはなく、自己資金だけで100台以上仕入れることができたのです」
千葉県有数の販売台数を誇るソデホンだが、他の販売店にはない独自の商材も扱っている。それはシート高を低くしたGSX250RとVストローム250だ。加工したリアサスペンションとスタンドを組み付け、光軸と突き出し量を調整するローダウンキットを使用し、GSX250Rは最大65㎜、Vストローム250はメーカー純正シートと合わせて最大70㎜のローダウンを実現している。この加工車両は2018年から扱っているが、そのキッカケについて小林社長は次のように説明する。
「GSX250RとVストローム250はビギナーライダーから人気が高いのですが、足つきの問題から諦めてしまう人がいました。そこで、この両モデルがより売れるためにどうすればいいかを考えた結果、市販のローダウンキットがないなら自分たちが作ればいい、という考えに至ったのです。ローダウンキットは、サスペンションなどの加工を専門とする知り合いの業者に依頼し制作しています」
両モデルのローダウンキットは年間で50セット以上販売しており、遠くは、福岡県のユーザーからも問い合わせがあったという。加工車両は本店と五井店に展示しており、取材時、筆者も跨らせてもらったが、ホームページで“跨げばわかる!” と謳っているように、安心感のある足つきを実感できる。
他店にはない商材を独自で開発し、ユーザーの裾野を広げているソデホン。同店には「ヤマハ世界整備士コンテスト日本大会」のチャンピオン(2018年/井口友臣(ともしげ)さん)が在籍するなど、技術力の高さでも知られている。そんなソデホンの強みは、スタッフにある、と小林社長は語気を強める。
「私はお客さんのためになることが会社のためになり、会社のためになることが地域のためになる。そして、それは二輪業界のためにもなると考えています。このことを理解した上でスタッフが接客できるよう、教育にも力を入れています」
この教育の一つが、冒頭で触れたスタッフ全員による社訓・社是・経営理念の唱和なのだ。
「バイクの購入に至る過程で一番重要なのは、スタッフによる接客です。お客さんとキチンと向き合い、車両に関する悩みやカスタムなどの相談に乗り、それらを解決し満足してもらう。現在、ソデホンには24名のスタッフがいますが、これを体現できる人が多いからこそ、長年お客さんに支持してもらっているのだと思います。企業は人が作るのです」
ソデホンには現在、1980年代に同店に遊びに来ていた学生が50~60代となり、小林社長からバイクを購入したい、と何十年かぶりに来店するリターンライダーも多くいるという。このように、長年にわたりユーザーから慕われている小林社長だが、今後の展開についてはどう考えているのだろうか。
「カワサキプラザを何としてでも作りたい。以前、KMJから声を掛けてもらっていたのですが、他の業務が忙しくキチンと返答することができませんでした。カワサキの大型車両も扱って欲しい、というお客さんの要望に応えられないのが悔しくて、いまでも眠れない夜があるくらいです」
創業当初から50年以上にわたり“ソデホン”というブランドを築き上げてきた小林社長。同氏は2021年、その功績が評価され、“国土交通大臣賞”を受賞している。
「とにかくバイクと仕事が好き。なかなかこんな人いないと思います(笑)。あとは、正直であること。これだけは誰にも負けないつもりでいます」
このように語る小林社長が次に目指すのは、カワサキプラザの開業。ホンダドリームをオープンし大型車両を扱えるようにするなど、人一倍、ソデホンとユーザーのことを考え行動に移してきた同氏は、近い将来、プラザの看板を掲げていることだろう。
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