公開日: 2022/02/25
更新日: 2022/09/06
新しい移動手段として人気の高まりを見せている電動キックボード。その反面、事故や違反の報道を見聞きする機会も増えてきた。また、昨年12月には、警察庁が電動キックボードの規制緩和を検討中であることが報道された。今年1月に公開された2つのアンケート結果を紹介しながら、電動キックボードの抱える課題と規制緩和について、考えていく。
電動キックボード。ここ数年、次世代モビリティの一つとして注目されている乗り物だ。ハンドルバーのついたスケートボードのような形で、手軽かつ気軽に乗れるモビリティとして人気も高まりを見せており、街なかで見る頻度も、徐々に増えつつある。
それに伴い、事故や違反の報道を目にすることが増えてきた。今までになかった乗り物なので、どういうルールなのかが今ひとつ分からない、という人もいるのではないだろうか。それについて日本トレンドリサーチが興味深いアンケートを実施し、1月12日に公開した。「電動キックボードに関するアンケート」がそれ。同社の運営するアンケートサイトを利用して実施された調査で、対象は電動キックボードを知っていると答えた男女2198名。質問項目は以下の5つ。
■質問1/電動キックボードを使用してみたいですか?(グラフ1)
■質問2/回答の理由を教えてください。
■質問3/現在は電動キックボードを運転する際に「運転免許」が必要だということを知っていますか?(グラフ2)
■質問4/クイズ!電動キックボード使用時に義務付けられているものはどれでしょう?
■電動キックボードが公道を走る際、どのような法律やルールが必要だと思いますか?
グラフにしたのは、質問1、質問3。この中で特筆すべきは質問3だ。電動キックボードに乗る際に、運転免許が必要ということを『知らなかった』が31.3%。約3人に1人が知らないと答えているのだ(グラフ2)。これが一般的な四輪や二輪であれば、免許が必要ということはほぼ100%の人が知っているだろう。電動キックボードに対する理解度を高めること、それが大きな課題だ。
また、電動キックボードに興味がないから運転に免許が必要なことを知らない、ということではないようなのだ。グラフ1にあるように、利用したい意向を持つ人は「すでに利用している」の0.5%を含め、37.5%にもなる。約4割の人が興味を示しながらも知らないのだ。
もし、運転免許を持っていない人が、電動キックボードに乗るには免許が必要だと知らずに購入したら…違反だと気づかずに乗ってしまう、ということも考えられる。
しかも、ネットでは公道走行が可能な商品に混ざって、公道走行不可の商品も売られており、それを普通に買えてしまう現実がある。保安部品やナンバーのない公道走行不可のモデルを免許のない人が公道で走らせる。本人は便利な乗り物を買って使っているだけのつもりだとしても、はたから見れば悪質運転者と思われかねない。そして、何よりも危惧されるのは、『電動キックボード=無法者』というイメージを持たれてしまうこと。一度、マイナスイメージが定着してしまうと、プラスに変えることは容易ではない。
日本トレンドリサーチのアンケート結果の公開とほぼ同時期に、SWALLOW合同会社(以下、スワロー) からも電動キックボードに関する資料が公開された。それが、『電動キックボード動向2021年レポート』。
同社は、2020年9月に6事業社が立ち上げた電動モビリティの業界団体『日本電動モビリティ推進協会(JEMPA/1月20日に一般社団法人日本電動モビリティ推進協会となった)』のうちの1社。原付一種相当の『ZERO 9』や原付二種相当の『ZERO 10X』など電動キックボードのほか、2月には東京都新宿区にある伊勢丹新宿店メンズ館で、電動バイク『Fiido(フィード)』の先行販売も行っている会社だ。
同社のレポートは「電動キックボードの国内市場について」「スワローについて」「規制緩和について」「電動キックボード利用者アンケート」の4章構成となっており、この中で気になるのが、規制緩和と利用者アンケートだ。
前段で述べたように、電動キックボードへの理解度は決して高い状態とは言えない。このような中、昨年12月23日に、警察庁が電動キックボードの規制緩和を検討していることが報道された。検討されている内容は、表1にある通り。
現行法では定格出力600W以下の全ての電動モビリティは『原動機付自転車』に分類され、運転免許・ヘルメットが必須でなおかつ車道の走行が求められている。そのほか、自賠責保険への加入、保安部品の装備なども必要だ。
改正案では、分類を細分化。最高速度6km/h以下のものは『歩道通行車』、最高速度6km/h以上20km/h以下のものを『小型低速車』とし、運転免許は不要、ヘルメットは任意、走行領域も拡大される。最高速度20km/h以上のものに関しては、これまで通り『原動機付自転車』となる。
この改正案を見たときに、まず思ったのは、消費者が混乱するのでは、ということ。現状でも約3分の1の人が、「運転免許が必要であることを知らない」と答えている。改正案では、運転免許が不要な電動モビリティと必要な電動モビリティに分類される。「さて、自分が買ったものはどっち?」となる人が出てくるのではないだろうか。
スワローでは、電動キックボードを安全に運転するためのパンフレットを作成し、試乗会などで配布している。また、JEMPAも、電動モビリティの乗車マナーの啓蒙活動を行なっている。地道ではあるが、このような啓蒙活動を通して、消費者の理解度を深めていくしかない。
最後に、スワローのレポートに掲載されている利用者アンケートを見てみよう。これは、スワローで購入履歴のあるユーザーに対して行われたもので、302名が回答している。
購入者の年齢層は40代がトップで31%。次いで50代の27%、30代の21%と続く。30~50代で全体の79%と、約8割を占める(グラフ3)。
居住地は関東が圧倒的に多く63%。2位の近畿が12%なので、その5倍以上(グラフ4)。関東のどの地域に多いのかまでは不明だが、例えば東京なら渋滞が多く、大通りから少し入ると、道が入り組んでいるところも少なくない。そういった場所では、コンパクトで小回りのきく電動キックボードは使い勝手が良さそうだ。
電動キックボードでよく行く場所は「スーパー・コンビニ」が最も多く32%。ほか、公園やカフェ、スポーツジムなども挙がっている。電動モビリティはラストワンマイルの乗り物とよく言われるが、まさしくそのような「ちょっとそこまで」という使われ方をしているのが分かる(グラフ5)。
また、このアンケートでは、規制緩和についても質問している。それが、グラフ6と7。グラフ6の中で、「交通ルールの周知」が38%で、「運転者のマナー」に次いで2番目に多い回答となっている。免許は必要なのか、ヘルメットは、自賠責保険は、保安部品はなどなど、これまでになかった新しい乗り物ならではの疑問をちゃんと解決し、ルールを周知徹底していくこと。その重要性が、回答からも見えてくる。
電動モビリティの中で特に電動キックボードは、原付一種や原付二種の代替品というよりも、徒歩の代替手段あるいは徒歩と原付バイクの間を埋めるものというイメージがある。例えば、5km離れたショッピングセンターに行くには、クルマやバイク。歩いて数分のコンビニには電動キックボード。そう考えると、手軽に乗れる移動手段として、確かに、緩和規制にも意味があるように思える。
レポートによると昨年、JEMPA加盟企業は合計で5520台の電動モビリティを販売し、そのうちスワローは720台を販売。おそらく電動モビリティは、今後、この数字をさらに伸ばしていくだろう。
だからこそマナーやルールに対する啓蒙活動をしっかりと行い、「運転免許が必要だと知らなかった」という人をゼロに近づけていく必要がある。免許が必要かどうかは、移動手段を利用する上で、最も基本的な部分だからだ。そして、それらの課題をクリアして、電動キックボードが誰でも安心して気軽に利用できる移動手段の一つとして発展していくことに期待する。
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