公開日: 2024/01/22
更新日: 2024/01/22
販売店勤務の後、23年前に独立開業した、ジェイズファクトリーの植草潤一社長。自分1人で店を回さなければならないため、すべての業務において効率化が求められる。それを体系化することで、月100~120台もの作業をこなすようになった。
一人でも多くのユーザーに来店してもらうためには、店を目立たせる必要がある。方法は様々だが、手っ取り早いのは、目立つ「何か」を置くことだろう。
ここ、千葉県市川市にあるJ’s -factory(株式会社JK-root/以下、ジェイズファクトリー)もその一つ。店頭にはベンチがあり、そこには、洋服を着た“馬”が座っている。「何あれ? 馬がいる」「何で馬なの?」。おそらくこんな会話が交わされるだろう。これだけでも十分なインパクトと言える。
さて、前置きが長くなったが、ジェイズファクトリーが位置するのは、千葉県と東京都の都県境。創業は2001年で、今年で23年目となる。植草潤一社長は学校卒業後、ホンダの二輪・四輪を扱う販売店に就職。その後、別の二輪販売店を経て31歳の時、現在の地で独立を果たした。
「勤務していた店の社長に独立の意思を伝えたところ、それならウチの支店としてやったらどうか、と誘いを受けました。当時はメーカー契約も1契約で複数店舗の出店が可能だったからです。元従業員ということも、話がスムーズに進んだ大きな要因でした」
当時はカワサキ車が主体だったというが、現在はホンダ、ヤマハ、そしてスズキの新車を中心に扱っている。ホンダが全体の70%を占め、スズキが20%、ヤマハが10%という販売構成。ホンダは250cc、ヤマハは125ccクラスが中心だが、スズキに関しては、大排気量車を扱えることから、大型が中心。台数ベースでは圧倒的にホンダだが、その理由について植草社長はこう説明する。
「全機種網羅しているところですね。ギア付モデルをはじめカブやスクーターについても、低価格モデルからハイエンドまで、選択肢が豊富なため、お客さんからしてみれば、選びやすさがある。だから強いのかな、と思います」
中古車の取り扱いについては、ユーザーからの下取り車両が中心だが、「〇〇さんがバイクを手放した」という話は、同店のユーザー間であっという間に広がるという。その結果、店で実際にそのバイクを見たユーザーは「これ、〇〇さんが乗ってたバイクですよね? 僕が買います」と即断。店頭に並べる前に買い手が決まってしまうことも多いという。それ以外の車両については、前述のような例外を除き、基本的に「すべてBDSに」と説明する。
ジェイズファクトリーは、店内を見渡す限り、スズキのイメージが強い。けれども古くからのユーザーにとっては、かつての主力であったカワサキのイメージが強いのだという。
「カワサキ車に乗るお客さんもたくさんいます。ウチでの取り扱いはなくなったにも関わらず、です。意外だったのは、カワサキからスズキに乗り換える人も決して少なくはないということ。『スズキの大型が買えるなら、そっちにするよ』と、ZX-14Rに乗っていたお客さんがハヤブサに乗り換えたり、ZX-10Rのお客さんがGSX-R1000を買ってくれたり、といった感じです。カワサキ車にも思い入れはあると思うのですが、そういうお客さんは、ありがたいことにバイクではなく店に付いてくれているんです。一方で、カワサキ乗りのお客さんの中には、どうしてもZ900RSに乗りたいから、と他店で購入し、ウチで面倒を見て欲しい、という方もいます。問題はパーツですが、認証工場であれば、契約を締結すれば取れるので、それで困ってしまうことはないですね」
ただ、数年前に比べ、代替えまでの時間は伸びている、と指摘する。理由としては、車両価格の高騰を挙げる。その背景には原材料費の上昇もさることながら、排ガス規制の問題もあるという。適合させるためには、多額の開発コストがかかり、それが価格に転嫁される。それをユーザーが嫌気する、という図式なのだろう。
「最近の傾向として、250ccのカウル付のバイクがあまり動かなくなったように思います。一時期、人気を博したので、食傷気味になったのでしょう。街中に溢れ返ったことから、みんなと同じじゃつまらない、という否定の意識ですね。リッタークラスのSSとかは、台数は限られているけど、発売するには排ガス規制に適合させなければならない。そうなるとコストがかかる。それを台数で割ると当然、高くなる」
社外品についてはどうか。植草社長は続ける。
「例えばマフラーの場合、政府認証が不可欠となってからは、開発に従来以上のコストがかかるようになった。そうなると、その分、価格に転嫁されますよね。これも理由の一つだと思います」
確かに納得のいく話ではある。植草社長は、コロナ後の「異変」についても述べた。
「乗り方がだいぶ変わりましたよね。まず、すり抜けをしなくなった。私には社会人の息子がいるのですが、一切しません。友達も同じようです。あとは、改造の仕方も大きく変わってきていると思います。ひと昔前は、マフラーにハンドル、バックステップ。この3つが“三種の神器”と言われてましたが、いまは違います。USB(電源)、スマホホルダー、リヤキャリアですから(笑)」
この話からも分かるように、最近は走り云々というよりは、利便性を求める傾向が強いのだ。バイクに乗る頻度についてはどうか。これについて植草社長は、免許を取ってバイクを買ったはいいけど、あまり乗ってない人が多い、と語る。これは車検の依頼件数に表れているという。コロナが明けた次の車検、最初の車検ともに動きが止まるユーザーが多いのだ。理由として考えられるのは、すでに手放した、他店に依頼した、自宅に寝かせてある、あたりだろう。
「自宅で寝かせている人にとっては、バイクはモノなので、乗ることよりも所有しているかどうかが重要、という考えなのです。単に手元に置いておきたいだけ。だから、車検依頼を受けた車両のメーターを見ても、年間1000kmとかね。そういうお客さんが多いんです。大型に乗る人は少ないですね。たいがい250ccです。最初は400ccと迷うのですが、車検がなく維持費が安いと分かると、みんな250ccに流れる。400ccは車検があるので大型にステップアップしやすいのですが、その層が少ない。しかも価格は倍。つまり250ccからだとステップアップのハードルが高いんです」
全体的にはスポーツ系バイクが落ち着いてきた感がある、と植草社長は繰り返す。修理は相変わらず多いが、オフシーズンに入ったこともあり、小売りは落ち着いてきた。来店客が少ないと見積もりの数も減る。そうなると成約数も減少する。いまはそんな状態だという。
では、コロナ前とコロナ後を比較した場合の販売状況はどうか。2019年を100とした場合、数字はどう変化したのだろうか。聞くと、極端な変化はなく、2019年と2020年はほぼ横ばいで、2021年には2019年比で120%ほどに伸長。翌2022年は2019年、2020年と同水準となった。そして2023年になると再び増加に転じ、2019年以降、最多実績を更新しているという。新車の供給停滞がなければ、さらに伸びていたものと思われる。いまは納期を明示できるようになってきた。これが何よりも大きい、と植草社長。納期未定のバイクは売りにくい。これが本音だ。
過去10年を振り返った時、同店においてもいくつかの変化があった。それは大型バイクの台数が減少に向かい始めたこと。これについては次のように状況を説明する。
「2014年頃まではZX-14Rあたりをかなり売ってました。でも、これ以降、大型の車両価格がどんどん跳ね上がっていったのです。SSクラスがモデルチェンジごとに10万円単位で値上がりし200万円をオーバーするなど、簡単には手が出なくなってきた。これが最大要因です。家庭のある普通のサラリーマンにとっては、簡単に手が出なくなってしまったんです」
反対に売りやすいのは原付二種。原付一種からステップアップするユーザーがかなり多いという。免許が最短2日で取れるようになったことや、一種と二種とでは価格も大きく変わらないことから、50ccからから原付二種にステップアップしている。その反面、ビッグスクーターに乗っていたユーザーが低排気量スクーターに乗り換えるケースも増えているという。これは、購入当初はツーリングで高速に乗る機会もあるだろう、と考えているが、実際、ビッグスクーターで走っても面白くない。だからツーリングには行かないし高速にも乗らない。結局は日常の足どまり。それなら、125ccで十分なので、PCX160やNMAX155あたりに落ち着くという。ではバッテリーEVはどうか。植草社長は次のような見解を明らかにした。
「EVは内燃機関の動力性能にまだ追いつかないし、中古になった時に大変だと思います。ホンダのバッテリーパワーパックの存続にも関係するでしょう。継続して乗れるかどうかに関係しますからね。もし、3分で満充電できるような技術革新が起きればまた大きく変わるでしょう。だから、内燃機関はもう暫く続くと思います」
確かに納得できる話ではある。
ジェイズファクトリーでは、自店のホームページのなかで、作業工賃をすべて明示している。例えばパンク修理やオイル交換、Fフォークやリヤサス、エンジンOHまで細かく記しているのだ。この目的は一つ。作業の透明化だ。
「工賃については、作業が終わってからお知らせします」では、ユーザーからしてみれば、いくら請求がくるのか分からず不安になる。聞かれても明確な返答ができなければ同じだろう。そうしたことへの配慮である。もう一つ、同店で重視しているのは納期。これについても即答できるようにしている。
「ボクはせっかちなので、これについても即答を基本としています。お客さんに「タイヤいつ届きますか?」と聞かれた時、『明日です』とか、『いまメーカー在庫がないので1週間後になります』と即答できると、お客さんもウチも予定が立ちますよね。ディーラーが支持されるのは、そういうところがキッチリしているからだと思います」
植草社長のこうした考えの根底には、かつて勤務していたディーラーの経営者の教えがある。その代表例に、「作業が終わった車両はすぐに納車しなさい」がある。これは、修理が終わった車両は、お客様からいただくお金と同じ。できるだけ早く作業を終えて納車することで、お金も回るしユーザーも喜ぶ。預かる期間が短ければ、キズをつけるリスクもなくなり、スペースも確保できる。双方にメリットがあるというのだ。この教えが染みついていると同氏。これは現在、同店における作業の効率化となって生きている。
例えば修理車両の交換パーツの納期が確定していれば、それよりも早いタイミングで車両を預かることはしない。預かったらすぐに作業に着手できるタイミングでの持ち込みを依頼している。この時のポイントは、「〇日の〇時頃に持ち込んでいただければすぐに対応できます」と伝えること。「すぐに対応」という言葉が効果的なのだ。どうしてもパーツ入荷のタイミングでの来店が無理な時は、後日の作業となるが、よほどの理由がない限り前もって預かることはない。スケジュールを確定するのは、基本的には2週間先まで。この辺りは徹底している。
店は現在、植草社長1人で切り盛りしていることから、1にも2にも効率化が求められる。そのため、車検などについては、開店前に陸事に持ち込み、作業を済ませた後、店をオープンしている。こうしたことを突き詰めた結果、パンク修理から重整備までのすべてを含め月あたり約100台の作業をこなせるようになった。これは最低ライン。多い月では120台にも及ぶ。このなかには銀行や新聞販売店の車両も含まれる。地域密着だ。
前述したように、植草社長は1人ですべての業務をこなしているため、綿密なスケジューリングを行い、作業を自己管理する仕組みを作り上げている。そのなかで毎月100~120台もの台数をこなしているわけだが、定休日は毎週水曜日と第1、第3木曜日。比較的充実した休日だが、以前は、木曜日休みは隔週ではなく月1回だった。
「たまたま第三木曜を休んだことがあったのですが、あまり変わらなかった。休みを増やしたら売り上げが減ると思っていましたが、むしろ少し上がっていた。体はしっかり休めるのでいいのですが、そのかわり休み明けの金曜日は猛烈に忙しくなりました。でも、販売も売り上げも落ちてないので、それならば、と隔週で木曜休みを本格導入したのです。そこから現在に至りますが、全く落ち込みはありません。これからは、現状維持ですね」
取材中、こんなことがあった。スクーターに乗った中年男性が来店。急にエンジンが止まり動かなくなってしまった様子。店頭でやり取りをしていたが、数分で帰って行った。植草社長曰く、エンジンが焼き付いた可能性が高い、とのこと。だが、その男性は車両を預けずに帰った。「この部分までなら無償で対応できるけど、それ以上は費用が発生すると伝えたところ、じゃあいいや、と帰りました」
聞くと、ユーザーのなかには「お金が掛かるなんて聞いてない」と理不尽な要求をしてくる人が少なからずいるという。帰ったユーザーがこのようなタイプに該当するかどうかは不明だが、お金や作業内容に関するところは、事前にすべて明確にしている。これも作業工賃を明示する、という考えに基づくもの。状況対応が必要なシーンは、日々の営業活動においては数多く存在するが、すべては効率化、この3文字に帰結するのだ。
人気記事ランキング