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【トップインタビュー】株式会社アールエスタイチ 松原弘 代表取締役社長 <前編>

公開日: 2025/01/07

更新日: 2025/01/16

1975年に創業し、今年で50周年を迎えるアールエスタイチ。社長就任以降、主力事業を用品販売からオリジナル商品開発へとシフトし、用品メーカーとしての地位を確立した松原弘社長。商品開発の根底には、安全性と快適性にこだわりながらも、ライダーの命を守る、という強い思いがあった。

胸部プロテクターの普及に向け、4000万円以上かけて新商品を開発

アールエスタイチの創業店舗
アールエスタイチの創業店舗

――― 松原社長は、岩手県一関市で開催されたバイクラブフォーラムに、大阪からバイクで参加(片道約1000km)するなど、生粋のバイク好きとしても知られています。これまでのアールエスタイチの取り組み内容をお聞きする前に、松原社長の経歴ついてお伺いしたいと思います。まず、二輪業界に入ったキッカケについて教えて下さい。

松原
 大学卒業後、二輪と四輪の最新モデルを展示するショールームの運営をはじめ、販売店にグッズの販売やノベルティの提案などを行っていた、「ホンダSR」に就職し、大阪支店に配属されました。その当時、アールエスタイチは顧客だったので、何度か吉村太一(アールエスタイチ創業者/現相談役)が、当時の私の勤務先に訪れていたのです。小さな頃からバイクが好きで、大学生の時にモトクロスを始めた私にとって、吉村は雲の上のような存在。けれども挨拶をすると、気軽に話をしてくれる気さくな方でした。それから何度かお会いする内に人間性に惹かれ、私から雇って下さいとお願いをして、1983年、アールエスタイチに入社しました。

――― 創業当初のアールエスタイチは、どのような業務を行っていたのでしょうか。

松原
 弊社は、吉村が1971年からヨーロッパで開催された世界選手権に参戦した時、日本に紹介されていないバイク用品、特にオフロード用品が多くあることを知り、これらを日本で販売したいとの思いから、1975年に創業。当初は、バイクショップ&用品店としてオープンしました。そのため、国内4メーカーをはじめ、ハーレーやドゥカティなども販売。アプリリアを初めて日本に紹介したのは、実はアールエスタイチなんです。

――― 現在の会社のイメージとかなり違います。

松原
 若いユーザーには用品メーカーとして認知されていますが、昔からのライダー、特に大阪に住む人からは何でもやっているバイクショップ、と思われていたと思います(笑)。市販車の販売は20年ほど前に辞めてしまいましたが、モトクロッサーは約10年前まで販売していました。

オリジナル商品第一号「ギアバッグ」
オリジナル商品第一号「ギアバッグ」

――― 当時の主力商品は。

松原
 アメリカの「オークリー」やイタリアの「アルパインスターズ」などです。なかでもオークリーは、アールエスタイチが初めて日本に輸入しています。当時のオークリーは、モトクロス用ゴーグルを主力商品として扱っており、弊社はそれを日本でかなり販売していたので、創業者のジム・ジャナード氏が直接営業に来たほどです。また、アルパインスターズは、販売実績が世界中の代理店の中で1番だった時もあります。現在、ウチが代理店となっているのは、韓国のヘルメットメーカー「HJC」とアメリカの用品メーカー「トロイリーデザインズ」の2つです。

――― オリジナル商品はいつから開発を始めたのでしょうか。

松原
 オリジナル商品第一号は、1976年から開発に着手した「ギアバッグ」です。これは、吉村が現役で活躍していた時、モトクロスの装備を入れるものがなくて不便という思いから、スキーブーツのようにオフロードブーツを入れることができるバッグをコンセプトに開発。吉村は自分が不便と思っているものを作れば、みんなも同じ思いをしているから売れるだろう、という考えのもと、オリジナル商品の開発に至りました。ただ当時は、アルバイトも含め十数人しかスタッフがおらず、バイクも販売していたため、オリジナル商品の売り上げはほんのわずかでした。

――― オリジナル商品初のヒットは。

松原
 1984年にアシックスと共同開発した、ライディングシューズ「RST 301」です。とある縁から、アシックスに協力してもらえることとなり、ステップが当たる部分はソールを硬くして欲しい、靴紐が引っかからないように固定するものを作って欲しい、といったような要望を伝え、何回も試作を重ねながら開発。当時、ライディングブーツはあっても、シューズにライディング機能を持たせたものは世界中になかったと思います。このライディングシューズは大ヒットとなり、タイプ3まで制作し、累計で約1万足も売れました。このRST301が、弊社のライディングシューズ開発の起源です。

“用品メーカー”という意思表示のため小売店3店舗をあえてクローズ

2022年12月、東大阪市に本社を移転
2022年12月、東大阪市に本社を移転

――― 社長に就任したのはいつですか。

松原
 2009年です。2006年に専務に就任しましたが、その時には吉村から「次の社長は頼むで」と言われていました。

――― 吉村さんから絶大な信頼を寄せられていたのですね。社長就任後、社内改革などは行ったのでしょうか。

松原
 給与体系を見直しました。会社として業績が良かった時に、内部留保を増やし続けるのではなく、社員に還元するようにしたのです。給料を上げ続けた結果、それと比例するように業績はどんどん伸長。また、弊社は年に3回ボーナスがありますが、いまでは1年目の社員でも、ハッキリとは申し上げられませんが、驚かれるくらいの額の決算賞与を支給することもあります。さらに残業は禁止です。アールエスタイチで働いている本人だけでなく、その家族も幸せであって欲しい。いくらバイクが好きでも、家族の支援がなかったら、いい仕事をするとは思えないのです。

――― 社員のモチベーションが上がったことは、容易に想像できます。他にも社員のための取り組みがあるのでは。

松原
 2022年12月に現在の本社ビルに移ったのですが、バイクの駐車場がありませんでした。そのため、高架線下の土地を借り、水道を新たに引いて、洗車も行える弊社専用の二輪駐車場を作りました。ウチはバイク好きのスタッフばかり。複数台所有している社員も多い。自分の家に置けない人は、申請さえすれば誰でも置けるようにしています。また、社員には色々なバイクに乗って欲しいので、社用車としてRC213V-S、R1250GSアドベンチャー、Z900RS、GB350、ZX-25R、CT125を用意しています。2000万円以上するRC213V-Sも、社員であれば誰でも乗ることができます。

タイチフラッグシップストアには「RC213V-S」が展示されている
タイチフラッグシップストアには「RC213V-S」が展示されている

――― ここまで福利厚生が充実している会社は多くないと思います。商売面における取り組みはいかがでしょうか。

松原
 主力事業を小売りから、オリジナル商品の開発に切り替えました。社長に就任するまでは小売りがメインで、各メーカーの用品を販売するショップとして、大阪本店、松原店、京都店、ケーユー相模原店の4店舗を展開していました。ただ、2000年以降からオリジナル商品がどんどん売れるようになってきたことを受け、いままで以上に開発に力を入れ、より多くの商品を販売すれば、もっと業績を伸ばせると思ったのです。ただ、そのためには、いままでよりもスタッフが必要となります。アールエスタイチの小売店は全員が社員。自社商品の知識が豊富なだけでなく、他社の商品特性について、自主的に研究しているスタッフが多くいました。そこで、大阪本店以外の3店舗を閉店して彼らを本社に戻し、企画や営業などに振り分けることで、商品開発力の強化を図りました。

――― スタッフを集める必要があったとはいえ、小売店を3店舗も閉めるとは驚きです。

松原
 小売店を営業しながらオリジナル商品を販売していたら、他の用品店は弊社の商品を扱いたいとは思わないですよね。オリジナル商品の開発をメイン事業とする以上、“アールエスタイチは用品メーカー”という、明確な意思表示が必要だったのです。だから、小売りを主体とした販売形態からシフトしていきました。ただ全店黒字で、1店舗あたり年間で3~4億円の売り上げがあったため、とても大きな決断でした。

――― 大英断は間違いではなかった。その結果、いまの繁栄があるのですね。大阪本店を残した理由は。

松原
 大阪本店は、1983年にオフィスと小売店の機能を持たせてオープンした場所で、現在は「タイチフラッグシップストア」として営業。同店は弊社の全アイテム、全サイズを販売し、見て触って試着できるショールームの役割があるからです。またフラッグシップストアでは、商品知識豊富な専任スタッフが、フィッティングサービスやコーディネート提案なども実施。同店は全商品を定価で販売をしていますが、スタッフの対応が良かったと、多くの方から好評をいただいています。





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