公開日: 2022/07/11
更新日: 2022/09/06
老舗の味を受け継ぎ、新たな業態で餃子の販売を開始した「餃子の雪松」。野菜の無人直売所が発想の原点。そこから「無人販売」という販売形態を採用した。出店コストも有人店舗に比べ低く抑えられることから、日本全国に出店を加速。創業から4年足らずで384店(2022年5月末時点)もの出店を実現した。同社のスタイルを模した店も多数表れるなど、多くの耳目を集めている。
――― 雪松さんのルーツは群馬にある食堂だそうですね。
高野内 はい。水上にある「お食事処雪松」がルーツです。80年以上前に創業し、いまでも店は営業しています。
――― 著名人が訪れる“隠れた名店”として知られていると聞きました。
高野内 かなり人気がありまして、3代目の時代には、多方面から「権利を譲ってほしい」「フランチャイズでやらせてくれ」「商標権を買いたい」といった申し出があったようです。でも、すべて断っていました。というのも、3代目の息子さんが跡を継ぎ、味を守っていくことが決まっていたからです。けれども、息子さんが若くして亡くなり、奥さんにも先立たれてしまったため、「自分の代で店を潰したくない」と、存続に拘るようになっていったのです。
――― 現社長は3代目のご子息ではないわけですね。
高野内 社長の長谷川は、3代目の甥っ子で、私は彼の同級生であり幼なじみなのです。そうした関係もあり、長谷川が継ぐことが決まった後、私も加わりました。そしてオープンしたのが「餃子の雪松1号店」です。
――― これはブランドを譲り受けたということ。
高野内 はい。“本家”の「お食事処雪松」は、餃子のほかラーメンやチャーハンなどを提供する、昔ながらの中華食堂なんです。そのなかでも餃子が大人気で、遠方から来られる方が多かったことから、餃子だけは残そう、と考え「餃子の雪松」としてスタートしました。
――― 味はどのように受け継いだのでしょうか。
高野内 3代目からレシピを教えて頂き、試行錯誤しながら完成させました。1号店のオープンが迫ってきた頃、3代目に試食して頂いたのですが、その時、「これなら全く一緒だよ。もう作るのが大変だから、お前のところから仕入れるよ」とまで言って頂いたのです。そうして2018年9月8日、埼玉県入間市に1号店をオープンしました。
――― 開店直後はどうでした?
高野内 行列ができて凄かったんです。スタッフ全員で朝の5時頃までかけて、かなりの数の餃子を用意したのですが、それでもすぐに売り切れてしまう。そんな状況が続きました。連日、交通整理のため警察が来たほどでした。
――― 群馬の水上と埼玉の入間とでは、100キロ以上離れていますが、なぜ、そこまで来店客が増えたのでしょうか。
高野内 事前に折込広告は打ちましたけど、想定をはるかに上回る来客だったので、口コミなのか情報拡散だったのか、よく分からないんです。
――― 商品はすべて冷凍ですが、難しさがあるように思います。
高野内 一般的に一度、冷凍したものを解凍して焼くと、味が変化することが多いんです。そこで、餃子の皮の元となる粉をオリジナルでブレンドし、味が低下しないようにしました。
――― 色々と工夫を重ねたうえで、いまの味に到達したわけですね。「お食事処雪松」の味が継承されたことで、3代目も喜んでいるのでは。
高野内 実は1年前に亡くなったんです。レシピを教わり同じ味を再現し、冷凍問題などいくつもの案件をクリアし販売形態を決めてオープンするまでに2年掛かりました。ホント、ギリギリだったと思います。でも、1号店がオープンした後、どんどん店が増えていった様子を見て喜んでくれていたので、良かったのかな、と。
――― 雪松さんの餃子はいま、人気の野菜餃子ですね。
高野内 肉は全体の1%程度で風味付けでしかありません。だから、好みが分かれるのも事実。なかには「肉が入ってないじゃないか」というお客さんもいます(笑)。
――― 店舗は無人販売ですが、おそらく誰もが思うのは、盗難被害はあるのか、ということだと思います。
高野内 よく聞かれるのですが、いままで盗難はほとんどないんです。日本人だから、ということなのだと思います。
――― 日本でないと成り立たない商売かもしれませんね。以前、これにまつわる一面広告を新聞に出稿されました。
高野内 そうなんです。昨年11月に読売新聞に掲載しました。よくご存知ですね。
――― 当時、話題になりましたからね。制作は外部の広告会社ですか。
高野内 いえ、コピーは私が書き、ウチのロゴを作ってくれたデザイナーにデザインをお願いしました。
――― 「日本は、いい場所だね。」というキャッチコピーが印象的です。「児童施設に無料で餃子をお届けします」とありますが、これはいまでも継続している。
高野内 全国300の施設に対し1万3000人分の餃子を毎月提供しています。施設の方からお申し出があれば、数量分だけ差し上げています。ウチは〇人いて全員に6個ずつ食べさせたい、と言われれば、その分だけお送りしています。以前は、店頭で主婦に無料配布していたこともありました。コロナでリモートワークが主体となったことで、主婦への負担が増しましたが、それに対する配慮の気持ちからです。でも、会社も成長してきたので、もう少し大きなことをやろう、ということで始めたのが、児童施設への無償提供です。
――― 広告効果もあって、メディアの露出はさらに増えています。
高野内 最初のうちは、すべてお断りしていたんです。というのは、「無人販売」というビジネスモデルばかりが取り上げられていたからです。でも、店舗数が200店を超えたあたりから、さすがに断りにくくなってきました。
――― どこかの局の帯番組の取材を受けたら、立て続けに取材依頼があるのでは。
高野内 夕方の帯番組で取り上げられたら、その後、必ず他局からも取材依頼があります。メディアの力は大きいな、とつくづく思います。
――― 無人販売という発想の原点は。
高野内 野菜の無人直売所をイメージしました。これが原点です。ヒントにしたのは「オフィスグリコ」ですね。代金回収率を調べたら、その頃は98%ほどでした。これなら行ける、そう思いました。電子決済でピッとやればドアが開く、といったテクノロジー系も検討しました。ただ、すべての人にとって使いやすいものだとは思えなかったのです。例えばスーパーのレジ。有人レジには人がたくさん並んでいるけど、無人レジはガラガラ。結局、あまり便利だとは思われてないんです。自販機での販売も検討しましたが、伝統の餃子をそんなふうに扱うべきではない、という思いが勝りました。結局、昔ながらの方法に落ち着きました。結局、革新的なことは何もなかった(笑)。
――― 商品はどのように補充している。
高野内 無人だとコストか掛からなくていいね、と思っている人もいますが、実際は1日1回から3回、スタッフが店舗に行き商品の補充や清掃、備品の発注、棚卸などを行います。いま、この瞬間で言うと、北海道と沖縄を除き全国に384店舗ありまして、それぞれの店舗にパートスタッフが2人ほどいて作業を行っているのです。入間(埼玉県入間市)に大きな工場があるのですが、そこから全国へ向けて配送します。ハブ&スポーク方式ですね。まず、大きなトラックの荷物を小分けのトラックに積み替え、各店舗を回っています。
――― 店はフランチャイズではなく直営だそうですね。ちょっと驚きです。
高野内 この話をすると、必ず驚かれますが、これには理由があります。スーパーや料理店から、ウチに卸してくれないか、ウチで取り扱わせてほしい、FCやらせてくれないか、といった問い合わせが毎日のようにあるのですが、すべてお断りしています。将来、経営者が変わったら、もしかすると、その方が合理的だという考えになるかもしれません。ただ、私たちのなかでは、「伝説の餃子」なので、その考えはありません。
――― スーパーでの販売となると、陳列は複数あるなかの一商品となってしまいます。
高野内 確かにそうだし、どのように扱われるかが分からない。お客様の手元に渡るところまでを自分たちで対応しよう、と考えているため、直営にこだわっています。非合理的であることは理解していますが、それだけこの餃子を大切にしていきたい、という思いが強いのです。
――― 雪松さんと同じように無人販売を行っている店は増えていますね。
高野内 ウチの備品や防犯カメラと全く同じモノを使っているところや、店内に設置している買い方ビデオの文言、ホームページのデザイン、内容までもがソックリなところもある。もし、他社の店にウチの社員が行っても、パッと見ただけでは分からないほど似ている店もあります。そんな状況下にあって、私たちが一番懸念しているのは、弊社は勢いで出てきた会社だと思われがちだということです。でも、実際はそんなことはないんです。いまの味にたどり着くまでには改善、改善の連続でした。販売システムについても、地味な改善の繰り返しでした。例えば餃子を陳列している冷凍庫にしてもそう。左右に開けるトビラの、アイスストッカーのような冷凍庫ってありますよね。最初、あのタイプも考えたのですが、閉め忘れは絶対にあります。その結果、溶けてしまい、それが原因で食中毒になってしまうことも考えられます。そうなると、世論は「販売手法に問題がある」となるでしょう。いまはコンビニタイプの冷凍庫を使っているのですが、そこまで考えたうえで選定しました。
――― 細部まで気を配っている。
高野内 そうですね。とにかくすべてにおいて議論に議論を重ねてきました。でも、メディアからすると、盗難の有無や無人販売という部分だけに興味が集まってしまうようです。でも、私たちが最も注力した対策は、先ほど冷凍庫の話をさせて頂いたとおり、品質管理でした。ハッキリ言って、商品は盗まれたら盗まれたでいいや、程度にしか考えてなかったのです。
――― 店を出店する時の基準について教えて下さい。
高野内 あまり細かいことはお話しできませんが、基本条件は「大きな看板を出せること」と「店舗の間口が広くガラス面が多いこと」です。無人販売所には、入りにくいイメージがあります。でも、中が見えると安心感があるし、防犯対策にもなります。こうしたリサーチは20代30代のスタッフ3名でやってます。
――― わずか3名ですか?
高野内 少し前までは2名でした。最近は、月に30店ほどのペースで出店しているので、選定にさほど時間は掛けません。担当者は日本全国を回り、次々と候補地を確定していくので、1度、出張に出ると3か月ほど戻ってこないこともあります。まるでロックバンドのツアー(笑)。意外な場所の店が一定期間内の売上トップだったりします。ある店がオープンする前の話ですが、店舗を中心に同心円を描くと、そのなかの一部に大きな湖がありました。当然、こんな場所で大丈夫なのか、という議論になりました。でも、実際にオープンすると、同じお客さんが1日に2回も来てくれたり、知り合いに配るから、と何個も買ってくれたり。そういう人が多いことが分かった。全く想定できませんでしたね。
――― 創業時からメニューは餃子のみですが、新商品の開発は。
高野内 最初の頃は、社内で何度も話し合いしましたし、お客さんからも要望がありました。例えば、ニンニクなし餃子やシソ餃子を作って欲しい、といったものです。でも、すべてご意見を「封印」しました。80年以上続いている餃子の味の完全再現というのが雪松の始まりです。それに対して、思いつきで、〇〇を加える、とか、そんなことは、すべきではない。お客さんがアレンジする分にはいいと思うんです。でも、それを私たちがやるのとでは、意味が違うのです。もしやるなら、ブランドを変えてやらないとダメですね。
――― やはり、高野内さんの言うように、歴史の完全再現なのですね。
高野内 そのために行っていることがあります。工場長ほか2名のスタッフによる試食です。いまは1時間に1回、味のチェックのため、焼いて食べています。昔は1日に1回でしたが、それが3時間に1回になり、いまは1時間です。以前、膨大な量の廃棄を出したことがありました。だから、1日に1回では追いつかないんです。
――― 1店舗あたりの平均売上や来店客数は。
高野内 残念ながら、これをお教えすると、「料金箱」(代金を入れる箱)に入っている額の見当がついてしまうので、防犯上、お教えできないんです。公開できる数字としては、全店における1日あたりのキャベツ使用料です。15~16トンほど消費します。
――― 凄い量ですね。ポイントは大量生産。
高野内 まさにその通りで、そこが創業時からの大きな課題なのです。生産数が限られていて、すぐに売り切れてしまう。この問題を解決するために、わずか4年ほどの間に入間市内で3回も工場を移転しているのです。弊社が出店を一気に拡大する時期は、工場が移転しています。店舗数に見合った生産能力が必要ですからね。
――― 今後の出店計画は。
高野内 400店を目標としています。この伝説の餃子を、できるだけ手軽に多くの人に食べて頂きたい、そう思っています。手軽な価格の商品を24時間体制で販売する。今度、北海道に初出店します。これで沖縄を除くすべての都道府県に出店したことになります。
――― 破竹の勢いとは、まさにこのことですね。店舗数が一番多いのは東京?
高野内 はい。36店(6月現在)で一番多いのですが、都心部はダメなのです。理由は昼夜間人口が違いすぎるからです。だから、都内では多摩地区が多いですね。先ほどもお話ししたように、多くの方に手軽に安く食べて頂くため、まずは400店への到達が当面の目標です。
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