公開日: 2023/02/01
更新日: 2023/02/02
ここ数年の間に、オレンジに墨文字色の看板を掲げたショップを目にする機会が増えた。言わずと知れたKTMディーラーである。躍進の理由は、豊富なラインアップにある。125ccから1300㏄までと幅広く、ネイキッドからアドベンチャー、オフまで豊富に揃う。この3年間で大きく変わったことや、この先の見通しについて、就任3年目の西ジェネラルマネージャーにインタビューした。
―――KTMジャパンに入社される以前は、どのような業界にいたのでしょうか。
西 大学卒業後、産業機器メーカーに入社し営業マンとしてキャリアをスタートしました。オートモーティブ関連のクライアントが多かったことから、自動車産業を常に様々な視点から見ている感じでしたね。その後、BMWジャパンに入社しモトラッドで営業を行いました。KTMに入社したのは2018年です。
―――KTMジャパンのトップとなってから2年が経過します。コロナ禍真っ只中という大変な時期の就任でしたが、様々なことに着手されたものと思います。
西 内部と外部の改革を行いました。最初に行ったのは、内部改革です。以前の指示系統はトップダウンだったのですが、徐々にこれをボトムアップに変更していきました。こうすることで、社員からはさまざまな意見が届くようになったのです。これが一番大きな変革でしたね。あとは「適度なプレッシャー」の排除です。度を越したものは避けるべきだし、かといって全くないのもダメ。バランスを重視しています。
―――外部改革については。
西 以前はディーラーネットワークにおけるブランドの体現が不足していました。どういうことかというと、お客様がディーラーに来店された時、KTMのラインアップをしっかりと認識してもらえるような環境(店舗)づくりが不十分だったのです。そこで、現在はその構築に取り組んでいます。いまではこぢんまりとした販売店が150平米の展示スペースを揃えたショールームを建てたり、あるいは既存店舗をガラッと改装したりするケースも増えています。
―――オレンジショップ?
西 従来はそうですが、いまは社内では「エクスクルーシブ」と呼んでいます。KTMやハスクバーナモーターサイクルズ(以下、ハスクバーナ)またはGASGASだけを扱っている店です。現在は、その方向にシフトしています。ショールームも凄いしバイクもたくさん揃っているな、といった世界観を体感していただくのが目的です。
―――正規販売店となる条件はどのようなもの。
西 KTMだと店舗の展示スペースは150平米です。展示車は、すべてのセグメントで各1台用意しています。ストリートとオフをラインアップしてますが、ストリートは原付二種から1300ccまで幅広く揃っています。その中にネイキッド、アドベンチャー、そしてツアラーもある。多くのモデルを見比べられるのも大きなポイントです。現在は未開拓のエリアやホワイトスポットを埋めている状況です。先ほどお話ししたように、KTMとハスクバーナの他、GASGASも扱っていますが、店舗数はKTMが41店、ハスクバーナが25店、GASGASは13店です(2022年12月18日現在)。
―――収益全体に占めるKTMの比率は。
西 KTMがおおよそ70%です。残りはほぼハスクバーナ。GASGASは新しいブランドなので、まだ2%ほどしかありません。
―――GASGASは価格設定から見ても、エントリーモデルというイメージがあります。
西 そうですね。3 ブランドの中では、エントリーしやすいブランドとして考えています。KTMは『READYTORACE』というスローガンに基づき、パフォーマンスを重視した車両となっています。ハスクバーナは、どちらかというとシンプルでプログレッシブなブランドなので、KTMとは方向性の違うプレミアムなブランドとして認知されています。GASGASはとても乗りやすく、また実際に乗っていて楽しい車両です。それでいて、お求めやすい価格設定。『GET ONTHE GAS』がスローガンです。「GASに乗れ」ですね。GASという言葉にはガソリンという意味もあるので、スロットルを開けることを楽しみながら乗って下さい、という感じですね。
―――ブランドごとのユーザー層の違いはどうでしょう。
西 表現するのは難しいのですが、KTMはモータースポーツやオフロード走行が好きな方、オーバースペックが好みの方からの支持が強いです。一方のハスクバーナは、お洒落な方がデザインに惚れ込んで購入されるケースが多いですね。割と新規の方の比率が高いと思います。GASGASは、2年前から始めたブランドなので、これからのブランドです。基本はオフロードユーザーですが、GASGASが3ブランドのなかのエントリーモデルというわけではありません。それぞれに個性があるので、それぞれ棲み分けはできています。
―――どのようなカタチで?
西 オフロード車両でいうと、KTMのリヤサスは、リンクレスですが、ハスクバーナとGASGASはリンク式を採用しています。また、ブレーキキャリパーやスポークホイール、ハンドルのメーカーも違うし、セッティングが異なるなど、各々のブランドにそれぞれの乗り味がある。だから、ユーザー層にも明確な違いがあるのです。
―――3ブランドすべてを扱う店は多いのでしょうか。
西 全国に5店あります。そのため、ブランド別に数台所有しているお客様もいらっしゃいます。販売店にとっても、複数のブランドを扱うことで、幅広い層をカバーできるようになる。一つのブランドだけだと、そこだけの世界となってしまう。でも3つあると、3つの世界があることになります。実際、店のなかでもゾーニングができていて、ブランドごとにフロアの色を変えるなど、視覚的な変化を表現しています。
―――西さんがジェネラルマネージャーに就任される前は、マーケティングやディーラー開発などを担当されていましたが、いまは全体を見る立場となりました。かなりの重責だと思います。
西 ある程度、覚悟はしていました。日本法人は子会社なので、オーストリアの本社の営業時間が基準となります。日本時間の夕方が、ちょうど本社の始業時間となるので、夜中に電話が掛かってくることも普通にあります。もう、半分24時間体制のような感じです(笑)。就任した時から、それは覚悟していました。
―――この3年間で台数的にはどのような変化があったのでしょうか。
西 2019年はKTMとハスクバーナの2ブランドの扱いでしたが、販売台数は合わせて3565台(競技車含む)です。2020年が3700台ジャストで2021年は4005台と一気に台数が伸びました。今年(2022年)の最終実績はまだ出ていませんが、おそらく過去最高実績になると思います。この増加の要因としては、コロナ特需の他、2006年の改正道交法施行の影響もあると思います。当時、バイクの台数が激減しましたが、それ以降、行政が中心となり駐車場問題に取り組み始めました。その成果が徐々に表れ始めました。これにより、お客様が買いやすくなったのです。順調に台数を伸ばしてはいますが、世界規模で見ると、計画を下回った年もあります。要因は半導体不足ですが、一時期はワイヤーハーネスも不足していました。また、港湾業者のストライキによりコンテナが港から長期間出られなかったことも一因として挙げられます。その際は、お客様をお待たせしてしまい、ご迷惑をおかけいたしました。
―――サプライチェーンと材料不足の影響ですね。立ち直りの兆しが見えてきたのはいつ。
西 2021年は材料不足が深刻化する前にまとまった台数をオーダーしたので、2021年は大きな影響を受けずに済みましたが、2022年前半は、入荷がなく苦しい時期もありました。モノが入ってくれば、もっと売れたはず、と考えると歯がゆさはありますね。いまは、コロナ前の8割程度には回復しています。あと少しですね。
―――ユーザーはKTMに対してどのような感情を抱いているのでしょうか。
西 本当にバイクが好きな方が初めてKTMに乗ることで、KTMの奥深さ、味わい深さを理解する、というケースが多いですね。KTMの強みは、自社でファクトリーチームを抱えているところです。チームで活躍しているライダーからのフィードバックを、そのままR&Dが受け取ります。R&Dのスタッフは、根っからのバイク好きで、全員がプロレーサーのような技術を備えている人ばかりなのです。そんな彼らが開発しテストを重ね完成させているのがKTMなのです。
―――相当深い思いが詰まっていますね。
西 そうなんです。乗るほどに納得感が深まり、なぜこのような設計にしているのか、といったことが分かるようになってくる、そんな感じです。
―――KTMユーザーは、どのようなバイク歴の方が多いのでしょうか。
西 多いのは長年、国産のリッターバイク乗ってきたという人。もう若くはないのでもう少し扱いやすいバイクを、と考え、KTMを選んでいただくケースです。ハスクバーナが2018年からヴィットピレン、スヴァルトピレンというストリートモデルをリリースしたのですが、アメリカンから乗り換えたお客さんもいらっしゃいました。かなりお歳を召された方でしたが、重くて取り回しができない、というのが理由でした。でも、あまり小さなバイクには乗りたくない、という本人の要望もあった。そんな時、その方の目にとまったのが、スヴァルトピレンだったのです。「このデザインなら乗り換えてもいいね」と、気に入っていただきました。やはり外車の場合、外車から離れられない人が多いと思います。
―――KTMの社員の方は全員がKTM乗り?
西 そうではありませんが、推奨はしています。二輪業界以外の業界から転職した社員には免許のない人もいますが、免許を取ってみよう、と思い、取得した人も多くいます。そこは情熱の部分なのかな、と思います。
―――日本国内で企画を立案することもあると思いますが、それを実行するにあたっての自由度はどれくらいあるのでしょうか。
西 例えば、「グローバル規模でこういう方針が決定しました」という通達があったとします。もちろん本社の決定であるため、指示を実行しますが、必要に応じ独自の企画案についても提案します。「こういうことをやってみたい。これだけコストがかかるけど、これくらいの利益は見込める」といった説明をし、許諾を得るのです。KTMには、そうした提案に対し理解を示す土壌はすでに備わっているのです。すべては販売台数の増加に向けた取り組みではありますが、日本市場での台数はまだまだ低い。全世界では2021年実績で販売台数は30万台なので、日本は全体の2%弱です。やはり中心は欧米なので、日本が発言権を増すためには、さらに比率を高める必要があります。KTMもハスクバーナもGASGASもそうですが、基本設計は、モータースポーツからのフィードバックです。つまり、モータースポーツを基本とした設計がなされているため、ポテンシャルがすごく高い。そういう意味合いも込めて、乗っていて楽しいバイク、五感に訴えるバイクという特徴を打ち出していこうと考えています。あまり他メーカーにはないパターンだと思います。
―――それを「体験してもらう」必要がある。
西 その通りです。そのための手段が試乗会です。ディーラー側が企画立案したものを我々がサポートする、といった流れが基本です。ディーラー1店の時もあれば、複数のディーラーがジョイントし開催することもあります。その場合、KTMジャパンからの金銭的支援もあります。例えば試乗会を開催するための場所代などです。どうしても車両の登録が間に合わないような時は、KTMジャパンがディーラーに対し試乗会用の車両を貸し出すこともあります。
―――KTM主導の時は。
西 ここ数年はコロナ禍で大規模な試乗会が開催しにくい状況でしたが、感染状況をみて箱根などで開催しました。2023年は東名阪での開催を検討しています。ディーラーのイベントについては、常に全国どこかの店で行っている感じです。やはりスペックシートだけでは分からないこともたくさんあります。例えば、重心がどのへんにあるのか、とか、ハンドルの幅や角度はなぜこうなのか、などです。また、ステップの位置やタンクのくぼみの位置などについても同様。くぼみについては、ニーグリップのし易さはどうなのか、など、どんどんマニアックになっていくわけです。実際に乗ってみて、運転して分かる、ということですからね。
―――ディーラーで用意しなければならない試乗車の台数は決まっているのでしょうか。
西 はい。KTMでは8台を推奨しています。試乗されたお客様からは、「軽い」「取り回しがラク」という意見が多く聞かれます。例えばコーナーリングでも、200数十キロある車両と200キロ以下のKTM車両をバンクさせるのとでは、慣性モーメントの違いからKTMはスッと曲がる。「ハンドリングがリニア」という感想も多く聞かれます。販売全体のうち、約8割がストリートなのです。
―――ディーラーは既存顧客に対しては、イベントを開催している?
西 機種別にツーリングを開催したりしています。ハスクバーナなら、ヴィットピレン、スヴァルトピレンに乗るお客様だけでツーリングに行ったり、KTMだったらアドベンチャーオーナーだけで集まったりします。もちろん、機種を問わずに行くこともありますよ。変わったところでは海外ツーリングです。現地でバイクをレンタルするツアーはよく聞きますが、そうではなく、自分のバイクを現地に運び、海外で乗る、というものです。場所はエジプトのサハラ砂漠やタイにも行ってました。自分の愛車で走り切ったという達成感が魅力なのです。
―――販売面においては、ディーラーの中でも格差は生じると思います。販売計画を下回っている店に対する働きかけは。
西 一瞬のカンフル剤みたいなものですが、こちらから、イベントを開催していただくよう働きかけを行います。そして、それをサポートさせていただきます。その他、どうすれば売れるか、といったアドバイスもさせていただいています。わりと突き詰めた話を行っており、ある種のコンサルティングだと思っています。
―――フォロー体制は整っているわけですね。売れない状況に陥る最も大きな理由はなんでしょうか。
西 人員の問題が大きいですね。いま、二輪に関わる仕事への就業人口は不足しています。整備士資格を持っている人は、四輪ディーラーに引き抜かれるなど、解消の目途は立っていません。そのため、メカニック経験のある営業マンがメカニックを兼務する。そうなると、当然、営業が手薄になります。こうした問題が最も多いですね。つまり、やりたくてもできないというのが実情です。
―――業界全体が抱えている切実な問題ですね。2023年はどのような取り組みを考えていますか。
西 コロナの期間は、サービスの購入ができませんでした。では何に集中するのか。モノなんです。家電を買い換えようかな、とか、バイクを買ってみようか、という話は、コロナ禍においては発生していました。ただ、1回買うと、資金的に余裕のある人以外、しばらくは買い換えない。コロナが落ち着いてきた時、何が起きるか。それは今までモノに集中していたお金がサービスに向かい始めるのです。二輪業界にも、いずれそれがやってくるのだろうな、と。これについては強く意識しています。一方で一度、浴びた注目は、なかなか冷めるものではありません。今までの活況は保てないかもしれませんが、コロナ前の水準よりも良い状態をキープし続けるだろうとは思っています。
―――なるほど、説得力のある分析ですね。
西 二輪業界は、コロナ前までは斜陽の産業と言われるほど年々、販売台数が減少していました。でも、コロナ禍がキッカケとなり、そこから抜け出したようなイメージがあります。二輪に乗る環境も整備されてきているので、人々の選択肢として残り続ける可能性が非常に高いな、と感じています。
―――今年はこの先の二輪業界を占ううえで重要な年になりそうですね。ありがとうございました。
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