販売店取材注目

【販売店取材】バイクショップコウノハラクルーズ(株式会社RIN) 北原秀晃 社長(東京都)

公開日: 2024/05/08

更新日: 2024/05/09

「値引の話はほとんど出ない。これが最近の若いお客さんの傾向」と、コウノハラクルーズの北原社長。そのため、いまはバイクの楽しさ、遊び方など、店とユーザーという立場を超えた話ができる。これが本当に楽しい、と手放しで喜ぶ。同氏は魅力的なキャラクターの持ち主。ユーザーとのコミュニケーションも実にスムーズ。こうした個性が接客に大きく寄与しているのだ。

ホームページに「失敗しない中古車選び」を掲載。信頼感・安心感の醸成にひと役

コウノハラクルーズ。右側のカフェのドアが店舗入口
コウノハラクルーズ。右側のカフェのドアが店舗入口

「もともと『リミットレスクルーズ』というツーリングチームがあったので、それをそのまま店名に使おうと思ってました。でも、それではさすがにまずいかな、ということで地域名を加え『コウノハラクルーズ』としました。意味については、たまに聞かれますよ」

こう語るのは、バイクショップコウノハラクルーズ(株式会社RIN)の北原秀晃社長。同店は東京都八王子市に拠点を構える。生活道路を走行していると、道路を挟み向かい合った2軒の店が視界に飛び込んでくる。そんな感じだ。

2軒の店舗と書いたが、片方はサイクルショップ甲の原で、もう一方がバイクショップコウノハラクルーズだ。前者は店名からも分かるように自転車販売店。昭和の時代から営業している二輪販売店によく見られるように、同店も発祥は自転車販売店。創業は1969年で、北原社長が生まれた1年後に先代が立ち上げたという。

北原社長は専門学校を卒業後、ホンダディーラーに就職。その後、家業に就いた。当時は甲の原サイクル1拠点体制で二輪の扱いは2割ほど。そこで同氏はバイクの扱いをさらに増やした。ただ、そこには展示スペースの問題があった。

「店頭に数台、並べていたんです。初めて来店するお客さんは、店頭のバイクを見てバイクショップだと思い入店されます。でも、店内に入ると自転車しかない。その結果、「バイクはないんですね」と言って帰ってしまう。そんなことも1度や2度ではなかった。何とかしたいと思っていた矢先、当時、駐車場として借りていた現拠点の場所に、新たにショップを開業できることになったのです」

こうして甲の原サイクルの二輪部門が分離独立しコウノハラクルーズが誕生した。2007年のことである。自転車とバイクの2拠点体制となり、各々の業務も分かれたが、いまでも双方でインカムを付け、何かあったら即対応できるような体制を整えているという。敷地面積は甲の原サイクルが60坪でコウノハラクルーズは100坪。かなりゆとりをもって販売活動を行えるようになったというわけだ。

販売の主体は新車。ホンダとヤマハ、スズキを扱っており、全体の9割を占める。新車の販売内訳は原付二種が6割ほどで、軽二輪、小型二輪がそれぞれ2割ほど。原付に関しては、いまは一種と二種の割合が完全に逆転したという。この理由としては、二種の、かつての“通勤快足”的な需要から趣味需要が増えたことが挙げられる。

「いまは2025年問題があるので、原付二種を薦めています。それを機に、小型限定普通二輪や普通二輪免許を取るお客さんは徐々に増えています」

ただ、この地域ならではの問題もある。免許を取得する人は、公共交通機関を使わずに会社まで行ける人であり、駅までの足として考えている人は、二輪の免許を取っても原付一種以外のバイクを買うことはない。というのは、駅付近に原付二種以上のバイクを置ける駐輪場がないからだという。

「駐輪場の多くは50ccまでで、125ccまで受け入れてくれているところは台数が限られています。そのため順番待ちとなってしまう。だから、買いたくても買えない、そんなお客さんも少なくはないんです」

駐輪場不足はいまに始まったことではないが、切実な問題であることは容易に想像がつく。

ツーリング参加者募集はLINE登録したユーザーに対し一斉配信

店内には多くのバイクがひしめいている
店内には多くのバイクがひしめいている

販売台数の推移だが、コロナ禍においては車両の供給が追いつかなかったこともあり、年間販売台数は130台ほどの推移が続いた。いまはそれがほぼ戻り、2023年実績では150台にまで回復したという。

「いまでも思い出すのはハンターカブの人気です。あれほどにまで人気が高まるとは思っていませんでした。それだけアウトドアに楽しみを求める人が多かったということですね。元々、釣りに行く時の手段として使われていたことや、雑誌社が特集記事として掲載したことが影響していると思います。特徴的だったのは、パーツもかなり売れたこと。シート高が高いので、その換装から始まり、キャリアやフォグの装着やメーター変更などのニーズが多かったですね」

いまは人気も落ち着いてきたが、楽しみ方が一例として示されたことで、キャンプ=ハンターカブという流れはできているという。ハンターカブ以外で需要が高いのはモンキー125、PCX125など。ダックス人気も高いという。

冒頭、ツーリングチームの話をしたが、店舗オープン後、スタッフ不足やコロナ等の問題により数年間、ツーリングを開催できない状況が続いたものの、メドが立ったことから今年から再開したという。募集は“決め打ち”ではなく、LINEに登録してくれているユーザー全員に案内を配信している。

「いままで開催できなかった分を取り戻す気持ちでいます。バイクを買っていただいた方はもちろんですが、オイル交換で来店された方に、作業完了後、『はい、サヨナラ』で終わるよりは、ツーリングを手段としつなぎ止めを図るべきだと考え、登録をおすすめしています。いまのところ月1回で考えています。排気量の問題もありますが、まずは1回、やってみようと考えています」

コウノハラクルーズでは、ホームページのなかで「失敗しない中古車選び」というコンテンツを掲載している。ちょっと面白いので紹介する。内容は
①「中古車のメリット・デメリット」
②「個人売買の落とし穴」
③「あなたの欲しいバイクをお探しします」
の3つの構成。以下、一部を抜粋し紹介する。

まず①では、「新車では値段が高かったバイクを、モデルチェンジなどで需要が落ち着いた時に安く購入することができます。新車を購入する場合と同程度の金額で中古車を購入するのであれば、高いグレードの上位車を買うことが可能になる場合もあります。」などとある。対してデメリットは「中古車は過走行になった分だけ必ず部品は消耗し、劣化してしまいます。そして前のオーナーがどのような乗り方や保管、整備をしていたかによってバイクの状況は大分変わってきます。安い中古車の理由を考えてみてください…」

続いて②。「近年ネットが普及してからというもの、オークションや個人売買通販サイトでバイクを購入される方が増えてきています」と前振りを入れ、安いからという理由で買う人は多いが、これは本当に「安い」のか、と問題提起。そして、故障し修理に出した場合の総額を見ると、二輪販売店で売っている金額と変わらない金額あるいはそれ以上かかった、という帰結。そして③は、「信頼できるオークションであなたの欲しいバイクをプロの確かな目で探します」と結んでいる。

ユーザーも納得できる内容だろう。これをHPに掲載すると、それだけで安心感につながるものと思われる。実際、どの程度の効果があるのだろうか。これについて北原社長は説明する。

「息子とアイデアを出し合いながら考えました。発端は、どう説明すれば、みんなが失敗しないで済むかな、という思いから始めたものです。知識として知っていただくことが肝要だろうと。このコンテンツを見て来店される方は想像以上に多いので、効果はあると感じています」

確実に言えることは、ユーザーに対する安心感の醸造だろう。あれを読むことで、消費者の側に立った商売を展開する店、というイメージを持つ。それが購買の動機付けとなるのだ。

2021年にオープンしたクルーズカフェ。本格的メニューが人気

ライダーのみならず、近隣住民からも人気の“クルーズカフェ”
ライダーのみならず、近隣住民からも人気の“クルーズカフェ”

では、年齢層はどうか。近隣に東京工学院大学と創価大学があることから、大学生ユーザーも少なくはない。その影響からか、下は10代から上は80代と幅広い。まさに住宅街に拠点を構える二輪販売店の特徴を備えている。

高校生ユーザーについては、購入にあたり親がお金を出すケースが多いと思うが、最近は親が新車ではなく中古を勧めることが増えているという。まずは中古から、という考えがある。同店における中古の販売シェアは1割なので、中古在庫は限定的。また、車種によっては高値相場のものもある、そんな時は、ユーザーの予算をベースに候補となる車両をピックアップ。それを仕上げて納車した場合のトータル費用と新車を購入した場合の比較をユーザーに提示し、選んでもらうのだという。

大学生ユーザーについてはどうか。彼らを増やす手段は、大学生協とのタイアップが効果的。生協から学生に対する斡旋が期待できるからだが、聞くと、自転車の関係はあるが、バイクについては、いまは積極的な展開はないという。

「結局、担当者の考え方一つなのです。生協の店長が変わると方針も変わる。店長が契約する店を決定するからです。大手が入ることもありますしね。いまは動きの弱い時期。こればかりはコントロールできるものではありませんが、今後に期待しています。自転車については斡旋がありますね。面白い傾向があって、学生が自転車を買うのに家族総出で来店されるのです。先日は5名でした。買うのは1台。圧倒されちゃいます(笑)」

バイクと自転車の専門店が道路を挟み存在すると、当然のことながら相乗効果が期待できる。自転車を何台か乗り継いで、免許取得年齢になりバイクに興味を持った人はバイクに乗る。一般的な流れだが、一店舗のなかでの棲み分けではなく2店が完全に独立し専門化しているため、拠点間でユーザーを回すというイメージがしやすくなる。メリットは決して小さくはないだろう。

取材中、2名の学生と思しき男性が入店した。そして取材をしている隣の席に座り、軽食とドリンクをオーダーした。後になって分かったのだが、バイクの修理の件で来店した様子。ほどなく提供された食事を取り雑談。50分ほど経過した頃、チラッとこちらを見た後、出口に向かった。その様子を見た北原社長は一瞬、離席し学生ユーザーの後を追い、数分程度、話をした後、戻った。聞くと、2人とも創価大学の学生。1人はジョーカーに乗る大学2年生で、もう1人は友達の影響で乗り始めたばかりの初心者ライダー。古いバイクが好き、との理由でバンバン50を購入したという。

少し話は脱線するが、前段で「軽食とドリンクを注文した」と記した。「注文?」

これはどういうことかというと、同店では「Crew's Cafe」(クルーズカフェ)という飲食店を併設しているのだ。オープンはコロナ真っ只中の2021年。驚かされたのは、メニューの豊富さ。バーガー類やフード系クレープ、スイーツ系クレープ、ラテやシェイクなど、独立した飲食店のような、本格的なメニュー構成なのだ。

これらはすべて、北原社長の奥様とご長女が独自に開発したもの。過去にそういった経験があったわけではないというが、味は本格的。街中のカフェと全く遜色はない。驚いたことに撮影やメニュー表作りまでこなしているというから、力の入れ具合が伝わってくる。

クルーズカフェの入口が店全体の入口。このカフェが商談スペースであり、ユーザーが自由にくつろげる場所でもある。だが、席に座ったからといって、何かをオーダーしなければならないわけではなく、頼まなければ気まずくなるようなこともない。見ていると、取材中、前出の大学生以外にも数名、来店客が席に着いたが、飲み物を飲んでいる人、飲んでない人様々だった。

「カフェに来ることだけを目的にしている方もいるし、夫婦で来て、ご主人がバイクの話をしている間に奥さんがカフェでくつろいでいるようなパターンもあります。常連のお客さんがフラッと来て、あれ、どうしたの? というと、今日はカフェ、みたいな(笑)」

美味しくて気兼ねなく行ける店、そんなイメージがあるようだ。

2店の位置関係はこのような感じ。右側が「コウノハラクルーズ」で左が「サイクルショップ甲の原」
2店の位置関係はこのような感じ。右側が「コウノハラクルーズ」で左が「サイクルショップ甲の原」

話は戻るが、先ほどの大学生ユーザーの話にもあったように、同店は学生ユーザーから支持されているのは事実。その要因として挙げられるのは、北原社長の、距離感を感じさせない話し方と笑顔に表現された親近感だろう。年齢差のある若いユーザーとの会話も実にスムーズ。相手を固くさせない、また緊張させない絶妙な話し方なのだ。同氏の人柄に魅かれ顧客として定着するユーザーも多いことが想像できる。

そんな彼らの特徴について、ちょっと触れてみる。先ほどの大学生ユーザーに代表される若いユーザーは、その多くがコロナ禍で免許を取得している。そんな彼らはコロナ禍の高騰相場が普通だと思っているためか、「もう少し安くならない?」 という“キラーワード”を言われることは、滅多にないという。

「ひと言で言うと、商談を進めやすくなりました。以前は価格や値引きの話をされるお客さんも少なからずいらっしゃいました。私は性格的に相手の気持ちに入ってしまうことが多く、『ま、いいか』、と受け入れてしまうことがあるんです。でも、いまは値段の話をしてくる人はごくわずか。だから、バイクの楽しさ、遊び方など、それ以外の本来の話ができる。これが本当に楽しいんです」

まるで、昭和の時代のバイク乗りと話をしておるような感覚、と屈託なく語る北原社長。いまのコミュニケーションスタイルが、最も理想的な状況のようだ。

こうした関係性を受け、北原社長がいま考えているのは、通勤通学手段としてのバイクの他、趣味で乗る小型二輪の販売ウェイトを高めること。

「まずは新車から始め、状況を見ながら中古にも手を伸ばしていきたいですね。先ほどの彼ら(大学生)ではありませんが、個人的には古いバイクが好きなんです。状況を見ながらスタッフも拡充し、対応していきたいですね」

現在のコウノハラクルーズからは想像できないが、北原社長の頭の中には、すでに“理想郷”が描かれていた。



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