公開日: 2024/06/10
更新日: 2024/10/04
京都市内に4店舗を構える有限会社天神川ファクトリー。黒岩義正社長は、20年ほど前から店頭に立たず、各店舗の運営をスタッフに任せている。1990年代、ユーザー全体の8割を占めていた学生が、近年は3割となるなど、時代の変遷とともに需要形態も変化するなか、同社は昨年、約1600台を販売。その背景には、スタッフの自主性を重んじる同氏の経営スタイルがあった。
五条カドノ店、モトセカンド店、アールショップ、SBSリバティー。すべて京都市内の店だが、これら4店舗を展開するのは、創業38年の歴史を有する有限会社天神川ファクトリー。同社の主、黒岩義正社長は高校の自動車科を卒業後、航空自衛隊に入隊。除隊後、自動車の整備工場、ガソリンスタンド勤務を経て30歳の時、知人から誘われ、バイク用品店の店長を務めた。
この2年後、黒岩社長の人生を大きく左右する出来事が起こる。同氏は当時、上記の知人の借金の保証人を引き受けていた。ところが、その知人が音信不通になってしまったため、返済の義務を負わされる羽目に陥ったのだ。
「合計で5000万円の借金がありました。返済するためには何かを始めるしかないと考え、当時スズキが行っていた『ピュア店政策』を活用して、1986年、32歳の時に独立し、SBS天神川を開業しました」
スズキは当時、自社製品の取扱専門店拡充を図るべく、系列店政策を大々的に展開。詳細は明らかにはできないが、開店に際しては、販社から相応の援助を受けることができたという。
この選択は間違いではなかった。当時はスタッフの募集をかければ、すぐに応募があった。また、開店前からユーザーが列を成し待っていたこともあり、バイクを並べた側から売れていく、そんな状況が続いた。黒岩社長はSBS天神川の成功を機に、こうした時代の後押しを受け、矢継ぎ早に店舗を拡大。1991年にSBS北白川、1992年にアールショップ、1994年にSBSリバティーと、独立から8年間で4店舗を展開した。
ただ、成功の陰には、人知れぬ苦労があったのも事実。独立当初のことについて、黒岩社長は次のように振り返る。
「スズキ以外のメーカーは取引ができませんでした。また、何を購入するにも現金払い。お金を先に払わないと部品すら買えなかった。掛け売りは一切認められない、という状況が3年くらい続きました。また、保険会社とも店を立ち上げてから2年ぐらいは取引ができなかったので、お客さんの保険加入については知り合いに依頼し、対応してもらいました」
このように、債務を負うという逆境に立たされながらも店舗を拡大していった黒岩社長。この理由については、次のように説明する。
「当時はバイクの売れ行きが良かった。そのため、需要を上回るペースで仕入れを拡充したら、今度は車両が増え過ぎてしまい、店内が手狭になってしまった。倉庫を借りることも考えましたが、それでは売れない。新店を立ち上げ、そこに在庫を並べたほうが販売に結びつく。そう考え、次々と店舗をオープンしました」
また、複数店を運営することのメリットについては、「お客さんと触れ合う機会が増えるので、『○○店でこんなことがあった』など、様々な事例について、スタッフ全員で情報を共有できる。その積み重ねが、サービスの質の向上に繋がるのです」と語る。
開業から7年後の1993年には、法人化して有限会社天神川ファクトリーを設立。その3年後の1996年には、ついに債務を完済した。以降、SBS天神川は一度の移転を経た後、2002年、現在の場所に五条カドノ店としてリニューアルオープン。また、SBS北白川の閉店に伴い、2003年にモトセカンド店をオープンし、現在に至る。
天神川ファクトリーは現在、スズキとヤマハの正規取扱店。昨年の販売台数は、全店合わせて約1600台。新車は4割、中古車は6割となっており、新車は8割をスズキが占めている。この販売台数だが、近年の傾向として原付一種の減少が著しいと黒岩社長は語る。
「2018年頃から原付一種の販売台数がかなり減っています。それまでは、毎日注文しないと供給が追い付かなくなる、ということが多々ありました。コロナ禍でバイクブームが再燃しましたが、原付一種に関しては、減少の一途を辿りました。ウチはコロナ禍前から仕入れていた在庫が多くあり、半導体やコンテナ不足などの問題で他店が仕入れられないなか、店頭に並べていたにも関わらずです」
また、原付一種の販売台数減少は、若者のバイク離れが顕著に表れている結果だと言う。
「京都市は大学や短大がある関係から学生も多いのですが、いまは公共交通機関が充実しているため、ほとんどの人がバイクを購入しない。1990年代は顧客全体の8割を学生が占めており、生活の足として乗る原付一種はものすごく売れていました。けれども、年々若いお客さんが減り、いまは全体の3割程度になっています」
一方、コロナ禍で増えたのは、40~70代のリターンライダー。現在、全体の7割を占めている。彼らに人気なのは、スズキのSV650など、車重が軽く排気量の大きいモデルだという。また、最近のユーザーの傾向として、ハーレーに乗りたい、という女性ライダーが増えていると語る。
「いまはレブル250やドラッグスター250、400といったアメリカンモデルが人気です。特に女性は、クラスアップとなると、ハーレーのアイアン883などに乗りたい、という人が多い。そのため、今年からハーレーを仕入れるようにしています」
天神川ファクトリーの展示台数は、全店合わせて300台。また、モトセカンド店の2階は倉庫となっており、在庫台数は500台におよぶ。
車両の仕入れは、柏の杜会場をメインに行っている。この理由について黒岩社長は、「柏の杜会場は出品台数が最も多いため、探している車両を見つけやすい。また、検査をはじめ、何かあった時のフォロー対応がしっかりとしていることもBDSを利用する理由です。私は自分の目で直接確認したいので、月に1~2回、柏の杜会場に行き、車両を仕入れています」と話す。
1カ月あたりの整備台数は、五条カドノ店が300台、モトセカンド店が100台、アールショップが100台、SBSリバティーが100台の合計で600台。五条カドノ店では、多い時にオイル交換だけで1日30件も依頼があるという。このように、整備台数が多い理由について、黒岩社長はスタッフが親しみやすいからだと言う。
「勤続年数も長いんです。最長で27年。20年以上のスタッフも数名います。全社平均では20年弱くらいですね。彼らは高校生の時にお客さんとして来ていて、卒業後ウチのスタッフになってくれました。スタッフには販売、接客、整備とマルチに業務ができるよう、教育してきました」
黒岩社長の経営に関する考えは、店是に記されている。天神川ファクトリーでは、2003年より毎週月・木曜日、朝9時30分から全スタッフが集まり朝礼を行っている。そこでは、各店舗の週目標や達成状況、近況報告を行った後、スタッフ一人ひとりが伝達事項などを発言。そして最後に、スタッフ全員で下記の店是を唱和している。
一、常に頭を使い前進
一、常に時間を大切に
一、自己・自立する
一、気力・気迫を持て
一、お客様あっての店の繁栄(原文ママ)
「この5つは、働くうえで私の好きな考えをまとめたものです。特に、『お客様あっての店の繁栄』という考え方は、最も重要な要素です。そのため、スタッフにはお客さんに喜んでもらうことを常に意識して働いてもらっています」
その結果、スタッフは“黒岩イズム”を承継し、常に顧客ファーストの考えを持って業務にあたっているのだ。また、スタッフの定着率の高さは、店舗として安心感をユーザーに与えることができる。そのため、ユーザーは安心して利用することができ、スタッフといつまでも深いつながりを築ける。これは天神川ファクトリーの魅力となっているのだ。
天神川ファクトリーには、他の二輪販売店ではあまり見られないような特徴がある。黒岩社長は20年ほど前から店頭に立たず、アールショップの2階にある事務所で業務を行っている。この理由について、同氏は次のように説明する。
「スタッフが自分たちなりに考えて仕事をしてくれるので、安心して各店の運営を任せています。他の販売店さんからは何度も、『よく任せられるね』と言われますが、スタッフを信頼しているので問題はありません。任せても大丈夫なように育ててきています。何かトラブルなどがあれば、すぐにLINEで報告してもらい対応しています」
このように、黒岩社長から厚い信頼を寄せられていることが伺えるスタッフだが、彼らは同氏のことをどのように思っているのだろうか。社歴20年の五条カドノ店の橋本貴弘さんに話を聞いてみた。
「とにかく人情味あふれる方です。仕事だけでなく、プライベートのことでも色々と相談に乗ってくれるので、親父みたいな存在です(笑)。また、スタッフの意見をものすごく聞いてくれます。2020年頃まで、黒岩社長と専務(奥様の由美子さん)が車両の仕入れを担当していましたが、店頭にあまり立たれていないこともあり、現場で欲しいバイクと違うモデルを仕入れることもありました。そこで、僕も柏の杜会場に行って仕入れてみたいと伝えると、『なら今週から行こう』と、会社のトラックの手配や、必要な手続きなどをすぐに済ませてくれた。レスポンスの早さは本当にすごい。僕たちがこうしたいと言うと、ほとんど否定しない。むしろ、どうしたらできる? と聞いてくれる。働きやすいように環境を整えてくれるので、僕たちはやりたいことに集中できる。これは僕だけじゃなく、他のスタッフも感じていることだと思います」
天神川ファクトリーでは労働環境にも配慮している。開業当初より、スタッフにユニフォームを支給。現在は、年に制服を半袖長袖合わせて6枚、ズボンを3枚、安全靴を2足支給している。こうすることで、スタッフは清潔感を維持でき、ユーザーに信頼感を与えることができる。その結果、顧客満足度を向上させ、リピーターや新規顧客獲得に繋がっているのだろう。
また、同社では工具も会社で用意。さらに、週休2日制で残業はなく、業績に応じて回数は変わるが、年に3回賞与を支給している。これは、スタッフのモチベーション維持にも繋がっているという。
このように、スタッフに信頼を寄せ、手厚いサポートを行う黒岩社長は、彼らの自己・自立を促し、能力を最大限発揮できるようにしている。その結果として、上記のように年間販売台数1600台や月整備台数600台といった実績を達成するだけでなく、スタッフから全幅の信頼を寄せられているのだ。
取材時、黒岩社長とスタッフが談笑している姿が印象的であった。「一人では何もできない。スタッフは家族のような存在です」と笑顔で語る同氏。時代の変遷とともに、ユーザーニーズが変わり続ける中、1994年に4店舗体制を確立して以降、この販売体制をいまも維持し続けている秘訣は、スタッフに全幅の信頼を置き、彼らの自主性を重んじる黒岩社長の考え方にあった。
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