公開日: 2024/06/24
更新日: 2024/06/27
日本自動車工業会(片山正則会長)は5月23日、日本自動車会館で一般・二輪メディアを対象に記者会見を開催した。片山会長は自工会の長期ビジョン策定の件、ジャパンモビリティショーのビジネス版の開催について明らかにした。また、サプライチェーンにおける適正取引について、内田誠副会長(日産自動車社長)がコメントを発表した。
まず片山正則会長から3つの案件について説明がなされた。1つ目は適正取引の推進について。自工会では、3月の公正取引委員会からの勧告を踏まえ、下請け取引についての緊急点検を実施。そのなかで一部の会社で不適切な行為が行われている疑いも指摘されていたことを受け、徹底した調査を継続することを表明した。
今回の適正取引に関する事案について、自工会は非常に重く受け止めている、とし、法令遵守を大前提とした取引をサプライチェーン全体で推進することで、“550万人の仲間”と日本の競争力強化に貢献することを明らかにした。また、記者会見当日の理事会では、再発防止策や今後の仕入れ先とのコミュニケーション方法について徹底的に議論したことを説明した。これについて片山会長は次のように説明する。
「具体的には“下請法の遵守”を全社で徹底し、違反行為の未然防止に努める。また、日本自動車部品工業会(部工会)とも連携して『原材料費・エネルギー費の上昇分については適切なコスト増加分の全額転嫁』を、『労務費については仕入先と協議の上での適正な転嫁』を進めていく」
2つ目は自工会の「ビジョン」について。4月にイタリアでG7気候・エネルギー環境大臣会合が開催された。道路部門の脱炭素化に向けて、マルチパスウェイの有効性や、保有車両からのCO₂を削減する重要性が改めて示された。
日本の強みは、大型車から軽、二輪車のフルラインアップ。これまで自工会は、各社がマルチパスウェイにおいて技術開発を進めていた。今回、自工会の活動を整理し、10年先の日本の自動車産業の「あるべき姿」を見据えた今後の「ビジョン」として、示していく意向。
このビジョンを指針に、未来のモビリティ社会を見据えた税制のあり方、簡素化・ユーザーの負担の軽減を軸に議論を行う。「ビジョン」は、現在取り組んでいる「7つの課題」のバックボーンであり自工会政策の連続性を担保するもの、としている。
3つ目はジャパンモビリティショーについて。今年はビジネスイベントとして開催し、豊かな未来を一緒に創る仲間を広げていくことを表明している。これについて片山会長は、
「今年は休催年だが、ジャパンモビリティショーの連続性を担保するということもあり、開催する。ただ、開催の形態については、第1回開催とは異なり、よりビジネスサイドに焦点を当てたようなものになる」と明らかにした。
昨年、「東京モーターショー」は「展示会」から、「共創プラットフォーム」へと進化した。これは、自動車産業がモビリティ産業へと変革を進め、移動だけではなく、社会課題の解決や新しい価値を創造し、豊かで夢のあるモビリティ社会を創りたいという想いから作り上げたもの。今回はビジネスイベントとして、「共創プラットフォーム」のアップデートにつながる3本の柱に焦点を当てる、とした。
1つ目は、スタートアップ企業などの技術やサービスを紹介するブース出展。2つ目は、事業共創の推進として、多くのスタートアップと事業会社のマッチングの実施。3つ目は、豊かで夢のある未来のモビリティ社会の実現に向けた情報発信だ。今年はビジネス向けのイベントになるが、来年は一般の来場者向けのショーケースを開催し、毎年交互に実施する計画だ。
続いて、サプライチェーンにおける適正取引について、内田誠副会長(日産自動車社長)より説明が行われた。
「今年3月、公正取引委員会から、下請法の適用対象となる事業者の取引に関する勧告を受けた。これにより、下請け業者に対し下請け代金の減額に該当すると判断した金額を返金するとともに、割戻金の運用を廃止するなど再発防止に向けた取り組みを行っている。そのなかで5月10日のTV番組において、下請け違反の勧告後も違反行為を行っていた疑いがあるとの報道があった。私が責任者となり外部弁護士を含めた調査チームを立ち上げ、報道内容について事実確認を行っている。まだ最終確認には至ってない。取引先との信頼関係の構築に取り組む中、このような声が上がっていることを重く受け止めている。1週間をめどに報告する」
Q.5月10日のWBS(ワールドビジネスサテライト・テレビ東京)で複数の下請けが減額ないし買いたたきをされている、と報道された。トップとしてどう受けとめているのか。
A.内田副会長
サプライヤーと本当に向き合っているのか。この問題について、トップとして見ていく必要がある。サプライヤーに寄り添い競争力を高めていくことが重要。ケアが足りてないのであれば、正していく。確認を進めたうえで説明の機会を設ける。
Q.勧告後にも再び出てきたということは、長年の商習慣や関係性から、声が挙げられなかったのではないか。これは日産だけの問題ではないのではないか。今後、対等な取引、交渉が行われるようにするための取り組みやチェック体制、再発防止策について、教えてほしい。
A.内田副会長
再発防止策を進めている。勧告内容は割戻金に関するものだが、下請法に関わる問題について、どういうやり方を行っていたのか、そこに介入すべき点はないのか、などを踏まえ、社内で作業を進めている。サプライヤーとともに成長したい、という考えがあるかどうかが問題。
A.片山会長
自工会ではとてつもなく大きな衝撃が走った。運営共同体であるパートナーであるサプライヤーから声が上がること自体、衝撃。今回の実行プランのなかにも、逆にOEM側から疑問な点、交渉の過程における問題点について言って欲しい。大切なのは、日本自動車部品工業会との連携。一丸となって仕組を構築しようという話を進めている。サプライヤーは、我々にとっては最も大事なパートナー。不安の払拭が大切だ。
Q.ジャパンモビリティショーについて、もう少し詳細に教えてほしい。
A.前回はスタートアップ企業にコンテストをお願いした。今度は「リバースピッチ」(スポンサー企業側が事業概要や課題をプレゼンし、スタートアップ企業からソリューション提案を募る)をやりたい。これが1つ目。2つ目は社会に発信したい内容に関する、モデレーターを介した討論会。今回はショーケースというよりは出会いの場。競争プラットフォームのビジネス版と考えている。150の企業の参加を見込んでいる。名称をどうするのかも問題。サブタイトルでJMSを使う予定だ。
Q.トータルコストに原料の部分が反映されても原価低減で下がると、取引先の利益率は上がらないように思うが。
A.原価低減のあり方だが、これは世界との競争なので、価格の正当なコスト上昇分はしっかりと受け止め、競争力のある原価低減を行う。一方的に押し付けるのではなく、OEMサイドでどういうところを変えていけば低減できるか。逆にそのアイデアをいただきたい。よりクリアな状態での原価低減に励んでいく。競争している以上、避けられない話だ。
Q.原価低減は競争力の源泉というところでは、0か100かではなく、グラデーションのなかに最適値がある。その点で考えると毎年3000億円の原価低減を行っているトヨタは、かなり厳しいけどサプライヤーもいい決算を出している。100円のモノを80円にするために、メーカーとしてどういうことができるのか。80円になったらそれをどう分配していくのか。その考え方を教えてほしい。
A.原価低減と取引価格はバランスを取るもの。大切なのは、自動車産業全体の競争力を上げていくための取り組みだ。生産性を一緒に上げていくことが原価低減の本質。現場で見て会話をしていると、自動車OEM側が工夫をすれば原価が下げられるものがあるし、逆に我々が気付いてそれを共有することで仕入れ先が生産性を高めることもある。相互のコミュニケーションが原価低減であり、生産性を上げていくことでもある。いま、現場に余力がなく人が足りてないのが現状。現在の生産が精いっぱいで変革する力を出せない、そんな現場がたくさんある。それに対し、産業全体で競争力を高める取り組みがいま求められている。それが配分、価格に表れている。 取引というドライなところに落とし込むのではなく、一緒に未来を作っている仲間といかに競争力を上げていくのか、これが原価低減の持つ意味だ。
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