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登録は必要だが免許は不要。新区分「特定小型原付」が二輪市場に与える影響とは?

公開日: 2022/11/02

更新日: 2022/12/09

ここ数年、普及速度が高まっている電動キックボード。それに伴い事故や飲酒運転が急増している。サイズも小さく、折りたたんで簡単に持ち運べることから、自転車感覚で見てしまいがちだが、現行法では原付に分類される。けれども、そのサイズ感からか、二輪という意識が弱く、事故が急増しているのが現状だ。

表1:電動キックボード検挙・指導警告(令和3年9月~令和4年3月)
表1:電動キックボード検挙・指導警告(令和3年9月~令和4年3月)

警察庁はこの6月、「電動キックボードが関与する交通違反・事故の発生状況」(令和3年9月~4年3月)を発表した(表1参照)。これによると、検挙件数は265件。このうち「通行区分」が最も多く164件で62%、「その他」が38件で14%、「信号無視」が28件11%、「一時不停止」が22件8%、「整備不良」が13件5%となっている。検挙ではないが、違反を現認した際に注意を喚起する「指導警告件数」については454件。「無免許」については106件23%となっている。

ニュース等でも事故に関する報道を見る機会が増えたため、電動キックボードに対しては、マイナスイメージがあるのも事実。法的整備の遅れもそれに拍車をかけている。安価で低品質な海外製品が多く流通したことは、イメージダウンの大きな要因の一つと言われている。

こうしたなか、今年4月に道交法改正案が可決され、2024年春頃までに施行されることが確定した。周知の通り改正案は電動キックボードをはじめとする電動モビリティに、「特定小型原動機付自転車(特定小型原付)」という新区分を設定する、というもの(表2参照)。免許がなくても乗ることができ、また、ヘルメットの着用は努力義務となっている。最高速度は20㎞。年齢は16歳以上で免許は不要だ。これは事実上の規制緩和と考えられるだろう。

背景にあるのは競争力強化とインバウンド需要

表2:電動キックボード制度改正前後比較(個人所有の場合)
表2:電動キックボード制度改正前後比較(個人所有の場合)

既述の通り、電動キックボードの事故は増えている。そのようななかでの法改正となるため、意見は真っ二つに割れているのが現実だ。 賛成意見として多く聞かれるのは「究極のエコ」「足で漕ぐ必要がないので、楽に乗れる」「クルマに積んで、観光地で楽しめる」という意見や、「新しい商材としてラインアップできそう」といった意見もある。

賛否の「否」のほうについてだが、やはり一番多かったのは、他の乗り物との最高速度の違いから「事故を起こす危険性が高まる」というもの。交通事情に詳しいライターの山根陽一さんは、「免許保持者でない人だと交通法規に関する知識があまりないため、事故につながる危険性は低くはない」と指摘する。さらには、自転車に乗る感覚で利用する人が増加することが推測されるため、歩道でも6キロの上限を守らずに走行する人が増えるのではないか、と懸念を示す。

その他、駐車違反や盗難の問題も考えられるだろう。こうした、懸念材料があるにも関わらず規制緩和に踏み切った背景には何があるのか。

一つはベンチャー企業の育成が目的とされている。海外ではこうした事例が多く、日本もそれに倣おうというもの。こうした企業が多く現れることで、日本の競争力強化が期待できるのも事実だ。もう一つはインバウンド需要だ。海外では既に電動キックボードは広く普及している。

電動キックボードのシェアリングサービス導入、日本はわずか2都市

※画像提供:glafit
※画像提供:glafit

経済産業省が実施した「国内外の電動キックボードに関する調査」によると、2021年9月時点で電動キックボードのシェアリングサービスが導入されている都市の数が最も多いのはアメリカで129都市。2位はドイツで87都市、3位はポーランドで44都市となってる。アジア圏では24位のインドで6都市、韓国は27位で5都市だ。では、日本はどうか。39位でわずか2都市しかない。これはマレーシアと同数である。

日本という国には、想定以上に「出遅れ」がある。その一例としてよく言われるのは、「キャッシュレス決済比率」「銀行の営業時間」など。その他、「駅のホームドアの設置率」「電子書籍の普及率」など枚挙にいとまがない。もちろん、電動キックボードの普及率の低さも、その一つに数えられる。つまり、今回の法改正は、諸外国と足並みを揃えるためのものであることが考えられるのだ。

どのような理由があるにせよ、法律は整備され、新しい区分が制定される。免許は不要であっても、二輪であることに違いはない。新たな商材として検討する価値は十分にあるだろう。

メーカーはどう考える?

※画像提供:SWALLOW合同会社
※画像提供:SWALLOW合同会社

電動キックボードのメーカーは、法改正についてどう考えているのか。グラフィットとスワローの大手2社に聞いた。


Q1:「特定小型原付」クラスに相当する車両の生産計画。
グラフィット―――現在、前向きに検討中。
スワロー―――詳細内容については明らかにできないが、生産計画はある。

Q2:特定小型原付の新設についてどう思うか。ヘルメットの着用が努力義務となるなど変化も大きい。
グラフィット―――免許不要な乗り物の選択肢が増えることで、移動に関する社会課題(交通弱者、免許返納者、学生など)の解決の可能性がある。
スワロー―――特定小型原付の新設については賛成だ。ヘルメット着用の法的強制は過剰だと思う。ただ、弊社では安全のため着用を推奨する。

Q3:この先、普及が予想されるのはキックボードタイプ?それとも自転車タイプ? またそれぞれのメリットは。
グラフィット―――普及が予想されるのは、目新らしさのあるキックボードタイプではないか。多くのメディアは「特定小型原付」イコール「電動キックボード」というイメージで取り上げているので、自転車タイプは思い浮かばないのではないか。メリット・デメリットについてだが、電動キックボードは目新しく、乗車スタイルがオシャレっぽいのがメリットで、デメリットは自転車タイプに比べ事故率が高い点。海外では18倍というデータもある。
スワロー―――長期的には着座可能な自転車型が普及するだろう。電動キックボードは立ち乗りのため、乗り手が限定されてしまうからだ。ただ、立ち乗りだと普段とは違う景色を見ることができ、また持ち運びも簡単だ。ただ、長距離は走れないというデメリットがある。電動キックボードはラストワンマイルの解決策だ。自転車型は電動キックボードよりも実用的。中距離移動が便利で荷物運搬も可能。デメリットは見た目的に目新しさに欠け、価格が割高なところだ。

Q4:「特定小型原付」の販売ターゲットは。
グラフィット―――免許を持っていない層全般が主軸となる。
スワロー―――ターゲットはこだわりの少ないライトな感覚の人で、公共交通機関を利用しラストワンマイルを課題とする人。乗り物が好きな人は、速度を求めるため、原付登録の電動キックボードを選ぶだろう。



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